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十分な賃上げを実現するには「人手不足経済」をつくるべき。元日銀副総裁がわかりやすく解説

「未活用労働者ゼロ」の人手不足経済を実現するには?

経済オンチの治し方

イラスト/岡田 丈

 それでは、日本の現在の労働市場の需給関係はどのような状況でしょうか。完全失業率や有効求人倍率で見るのが一般的ですが、非正規社員やパートタイマーなど雇用形態が多様化しているため、これだけでは雇用環境の実態を正しく把握できなくなっています。  このような考え方から、総務省『労働力調査』では「未活用労働指標4」という指標を用意しています。未活用労働者には、通常、報道されている失業者(完全失業者=無職の求職活動者)のほかに、もっと長い時間働くことを希望している就業者や就業を希望していながら自分に合う仕事がないなどの理由で求職を諦めた人(求職意欲喪失者といいます)が含まれます。  ’23年1-3月期の完全失業者は176万人で、完全失業率は2.6%でした。この完全失業率は“ほぼ完全雇用”であると考えられてきました。それに対して、完全失業者を含む未活用労働者は417万人に達します。  つまり、完全失業者以外にも、241万人もの人が就業機会を求めています。この241万人のうち69%(166万人)が女性です。年齢別で見ると、未活用労働者の割合が高いのは、男性では15~24歳ですが、女性では15~64歳まで広い年齢層にわたっています。  未活用労働者がなくなれば、賃金は本格的に上がります。そこまで労働の超過需要が大きくなれば、企業も正社員でなければ、雇用需要を満たせなくなる可能性が高まります。  未活用労働者ゼロの人手不足経済を実現するには、金融政策が現状の低金利政策を採用し続ける一方で、財政が緊縮財政から減税を主たる内容とする積極財政に転換することが不可欠です。
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岩田の“異次元”処方せん
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東京大学大学院経済研究科博士課程退学。上智大学名誉教授、オーストラリア国立大学客員研究員などを経て、’13年に日本銀行副総裁に就任。’18年3月まで務め、日本のデフレ脱却に取り組んだ経済学の第一人者。経済の入門書や『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)、『自由な社会をつくる経済学』(読書人)など著書多数

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