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「男なんだから母親を助けるのは当然」生活保護で暮らす30歳の首を絞めた“男らしさの呪縛”。幼少期から虐待されていたのに

 生きづらさを抱える男たちを指す「弱者男性」という言葉がトレンド化している。近年では”非モテ”の文脈で使われることも多々あるが、本来は、経済的に困窮し、健康問題を抱えるなどして、社会の網からこぼれ落ちた人々を指す言葉だった。  真の弱者男性は何に苦しみ、何を考えているのか。ライター・トイアンナが迫る。

メンタルを病んだ母と不在の父。ゴミ屋敷で育ち双極性障害を発症

弱者男性パンデミック

写真はイメージです

「弱者男性を探しています」とオブラートに包まぬ取材依頼をしたにもかかわらず、一も二もなく承諾してくれたのは、神奈川県在住の30歳、みさこさん(ハンドルネーム)だった。 「モテないだけの人を、弱者男性と呼ぶのには抵抗がありますね」と語るみさこさんは、2年前から生活保護で暮らしている。気分のアップダウンを繰り返す病気である双極性障害を理由に働けなくなり、生活保護に頼った。彼は、もともとお金のない家庭で育ったという。 「母親がメンタルを病んでいる人で、実家はゴミ屋敷でした。父は単身赴任でずっと不在。その後、離婚しました」  それから、さらに情緒が不安定となった母親に怒鳴られる日々が続いた。みさこさんは家庭のストレスを理由に、不登校となっている。初等教育をツギハギにしか受けられなかったために、足し算、引き算が今も苦手だ。その後、立派に大学を出るも、双極性障害を発症してしまう。 「発症のきっかけは、母が家に押しかけてきたことでした。当時、実家にはエアコンがなくて。猛暑で死んでしまうといって、頼ってきたんです。母から散々嫌な目に遭わされてきたのに“男なんだから母親を助けるのは当然だ”と思ってしまった。結果、ワンルームでヒステリックな母と二人きり。自室はゴミ屋敷に変えられ、男としてのプライバシーも何もない状態でした」

母との生活がストレスに。クレカで散財、借金もかさみ生活保護へ

 幼少期から母親に当たり散らされていたみさこさんは、“家から母親を叩き出す”ことを想像できなかった。虐待の経験者は、幼少期から親に反抗しても無駄だと思わされているため、大人になっても逃げ出せないケースが多い。みさこさんは、ストレスからクレジットカードを無意識に使ってしまう日が続いた。しまいには消費者金融から借金を重ねるほど浪費してしまい、自殺を考えるようになる。 「今思えば、母は発達障害だったのでしょう。収入があるのに、自宅のエアコンを買うことができない。明らかに人生の優先順位を間違えてしまうところは、僕にもあります」  追い詰められたみさこさんは、生活保護に駆け込んだ。そのときの所持金は、2000円を切っていた。  もともと、みさこさんは精神医学の本を読むのが趣味だった。そのため、双極性障害になったとき「もしかして」と気づき、病院へアクセスできた。さらに、生活保護についても知識があり、頼ることができた。これらはすべて、偶然によるものである。もし、みさこさんが関連知識を持っていなかったら、借金苦で自殺してしまっていたかもしれない。
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7人に1人しか受給できていない生活保護。その理由とは
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ライター、経営者。主にキャリアや恋愛について執筆。5000人以上の悩み相談を聞き、弱者男性に関しても記事を寄稿。著書に『弱者男性1500万人時代』(扶桑社新書)『ハピネスエンディング株式会社』(小学館)。X:@10anj10

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データで読み解く“弱者男性国家”ニッポンの現在


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