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「成績の悪い子ども」を怒鳴りつけ、土下座させる…“自分の人生に納得していない”親たちが抱える闇

小言に耐えていた子どもがついに爆発…

 そのうち、阿部氏の不安が的中してしまう。 「お母様からの小言にずっと耐えていたお子さんでしたが、とうとう家庭内暴力に至ってしまいました。お母様の鎖骨にはヒビが入り、警察を呼ぶ騒ぎになったということです」  その後、母子関係修復のためには物理的な距離をおくべきとの阿部氏の助言もあって、寮制の学校へ進学したという。単に学力を上げるだけではなく、親子関係に着眼した指導を徹底して行ってきた阿部氏には、ひとつの矜持がある。 「誰しもよそ行きの顔は取り繕うことができるものです。親御様の表面的な部分だけを見て安心せずに、もっと深い部分をみて、それが子どもに影響を与えていないかを常に考えるようにしています。重要なことは、親御様がご自身の人生に納得をされているかという点です。自分の人生の精算ができていないと、無意識に後悔や願望を解消する道具として子どもを利用したり、過度な期待をかけて子どもを潰してしまいます

子育て以外に熱中できることを探すべき

「子育てに全力を注ぐことは素晴らしいのですが、親自身もほかに熱中できることを見つけないと、常に子どものことを心配して不安感に駆られている状態になり、家庭の空気も重たいものになってしまいます。すぐに自分の熱中できるものを発見するのは困難ですので、まずは子どもの心に向き合ってもらい、追い詰めている事実を知ってもらうことにしています。関係性が改善されると、親御さんの気持ちも上向きになり、熱中できることを発見しやすくなりますから。  子どもはどんな子であっても、実は非常に繊細に大人の言動を見ています。だからこそ親は悪い影響がいかないような心持ちでいることが大切なのだと思います。ひとたび精神を壊してしまえば、回復までには相当の忍耐と労力と時間を必要とします。学力の遅れだけではなく、人間不信や自信喪失、自暴自棄など長期にわたって引きずってしまった事例を知っています」  指導者としての阿部氏は、子どもに対して「思っていないことは褒めない」と話す。鋭敏で多感な感性は、魂胆にまみれたお世辞などすぐに見抜こう。子どもの察する能力を侮らず、対等に接するということ。そして、加熱していく受験の“主役”を親ではなく子どもに取り戻すことは、子ども自身の人生を生きてもらうことに他ならない。受験という通過点であれば誤魔化しもきくが、圧倒的に長いその後の人生を子どもはどう生きるか。親はどう生きたか。阿部氏はゆっくりと傾聴して、微笑みかける。 <取材・文/黒島暁生>
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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