「今からでも観たい夏ドラマ」BEST5。『ブラックペアン2』は5位、『笑うマトリョーシカ』は3位
夏ドラマが中盤に入りつつある。現時点までで、どのドラマが面白いのか? テレビ界取材歴30年以上で、ドラマ賞の審査員や放送批評誌の編集委員を経験してきた放送コラムニストがベスト5を選び、解説を加えた。
(日曜午後9時)
エンタテインメントに徹した医療ドラマ。観る側を飽きさせない。 まず、主人公の天才心臓外科医・天城雪彦(二宮和也)のキャラクターがいい。手術費として患者の全財産の半分を要求したり、自分とのギャンブルを求めたり。およそ医師らしくない。天城の言葉も常識外れ。自信家で「僕は悪魔だよ、神に愛されたね」と口にする。手術前には「さぁ、ショータイムだ」。ドラマの天才は変人のほうがいい。常識人の天才なんて面白みに欠ける。
天城が変人でリアリティに欠ける存在であっても物語が破綻していないのは周辺の人物設定がうまいから。竹内涼真(31)が演じる誠実な医師・世良雅志が中和剤の役割を果たしている。
東城大学医学部付属病院の病院長・佐伯清剛を演じている内野聖陽(55)、維新大学心臓外科教授・菅井達夫役の段田安則(67)の存在も大きい。内野は抜群にうまいから、登場するだけで物語の重厚感が高まる。また、日本医学会会長の座を狙う野心家の菅井を段田が演じることにより、医学界の闇の深さが表されている。
気になるのは手術室看護師・花房美和(葵わかな)の母親で弁護士の戸島和子(花總まり)の命。戸島は心臓病だが、第4回で天城を「詐欺師」と罵り、存在を否定したため、彼の手術を受けられず、死の淵に立たされている。天城は助けないのか。
戸島は天城を否定する理由として「正義に反するから」と言った。天城が多額の金を求めるからだ。しかし正義の定義は人によって異なる。天城は手術の成功こそ正義と考えているのだろう。
ストレートな形ではないが、このドラマは命の大切さを訴えている。天城にとって命と比べたら金は軽い存在なのだ。天城は偽善者ならぬ偽悪者ではないか。
(火曜午後10時)
上質のハートウォーミングコメディ。松本若菜(40)が演じる主人公・西園寺 一妃さんのキャラクターが抜群にいい。
西園寺さんは38歳で独身。35年ローンで1戸建てを買ったばかり。家事に役立つアプリを開発するIT企業のエースだが、自分は家事を一切やらない。
「とことん家事が嫌いな西園寺さん」と胸を張るが、やりたくても出来ない。やったことがないからだ。食事は買ってくるか、宅配で済ませる。掃除はロボット掃除機任せ。部屋の隅などに溜まったホコリは取り切れないものの、気にしない。洗濯機が全自動で乾燥機付きなのは言うまでもない。
かといって面倒くさがり屋かというと、そうではない。愛犬「リキ」の犬種がボーダー・コリーであることが、それを証明している。
この犬は頭が良く、運動が大好きな牧羊犬なので、無精な人では飼うのが難しい。愛情を注ぐのを怠たると、たちまち問題行動を起こす。
リキが伏線に違いない。西園寺さんは横着だから家事をしないわけではない。何か理由がある。おそらく、自分が大学生のときに母親が家を出て、離ればなれになったことだろう。
西園寺さんとリキは快適に暮らしていたが、家の賃貸用の部屋に父娘が引っ越してくる。29歳の同僚・楠見俊直(松村北斗)と4歳のルカ(倉田瑛茉)である。
楠見は妻の瑠衣(松井愛莉)を1年前に病気で失ったシングルファザー。おまけに住まいが火事になったため、心配した西園寺さんが賃貸用の部屋に住むことを勧めた。西園寺さんは情に厚いのだ。
西園寺さんは楠見に自分の洗濯乾燥機も使うことも勧めた。ルカの保育園のお迎えも買って出る。困っている人を見過ごせないのである。
度重なる厚意に楠見が恐縮すると、それにも我慢できず、「じゃあ、家族になろうよ!」と提案する。家族なら気を使わないからだ。かくして偽家族が出来上がった。今後、どんな日々が待っているのか。
⑤TBS『ブラックペアン シーズン2』
④TBS「西園寺さんは家事をしない」
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
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