仕事

特殊清掃員の葛藤「弟の“遺書”の内容をどう伝えるか」憔悴していた姉が感謝の言葉を述べたワケ

感謝の言葉に救われた

女性「考えた結果、依頼主に作業の全工程が終わったという報告と合わせて、遺書が見つかったと伝えました。読むべきではないと思いつつも読んでしまったことを謝罪しつつ、『見ない方がいいと思いますが、どうしますか?』と尋ねました。言葉で説明してほしいなら今伝えますと。2分くらいの沈黙があった後に、『送ってください』と言われたので、郵送でお送りしました。  すると数ヶ月後にご連絡をいただいて、『あの時、遺書のことを教えてもらわなければ、立ち直れていなかったかもしれません』とお礼の電話をいただきました。弟が生前どう過ごしていたのかを知れてよかったと。なるべく仕事に感情移入しないというのがプロだと思っていたのですが、今回ばかりは胸に来るものがありました」  鈴木さんは、葛藤しながら行動した結果が依頼主の心に悪影響を与えることになったのではないかと危惧していたが、一本のお礼の電話によって、自らも救われたのだ。 「ブルークリーン株式会社としては『心をきれいに地球をきれいに』といった社訓があります。今回の自分の動きは会社のビジョンとは逆の動き、お客様の心を抉ってしまったのではないかと思いましたが、結果的に人の心を救うことができたので、かなり自分の中でも大切な経験になりました。働くにあたって、ただ作業をこなすだけではなく、お客様の心を拾うところまで考えていくのがプロとして重要なのではないかと考えさせられた案件でした」

ゴミ屋敷と化した家

 このような、仕事中に心を抉られるような体験は何度もあるという。  「他には宗教関係の理事をされている女性が孤独死し、掃除にうかがったことがありました。遺体の発見が遅れ、かなりひどい状態になっていたそうで、ご家族の方が遺体の面会ができないくらいの悲惨な状況でした。  3LDKの一人暮らしで、荷物が多く玄関からダンボールが道を塞ぐように積んでありました。過去には両親と暮らしていたようなのですが、先立たれてしまったあとの孤独死のようでした。なので、ご依頼の内容としては部屋全体を整理して全て綺麗にしてくれと」  宗教関連の仕事以外に他のお仕事もしていたようで、仕事部屋は足の踏み場がなかったようだ。亡くなった女性は足が悪く、外での移動は車椅子を使用していた。 「おそらく、一人暮らしで足が悪く掃除などがあまりできなかったので、あそこまで散らかってしまったのだと思います。玄関も通れないくらいにダンボールなどが積まれていて、足が不自由な方の一人暮らしはかなり大変なんだろうなと思いました。死後の発見が遅れたことでウジ虫もかなり湧いてしまって、ハエなどが換気扇をつたって隣の家や共用部の通路にまで行ってしまってるようなひどい状態でしたね。  ゴミ屋敷のような状態の場合、普段はテンポよくゴミを仕分けしていくのですが、今回は宗教関係の品物や資料で部屋がいっぱいになっているので、何を捨てていいのか判断がむずかしかったです。なので一個一個、依頼主である弟さんに確認しながら捨てていきました。その時、弟さんが『なんでこんな亡くなり方をしたんだろうな』って心境を吐露していて。ただ、こちらも同情をするとあまりよくありません。同情をしすぎると自分の精神が病んでしまったり、悪影響が出るんですよ。なので、この仕事においてはやはり多少ドライな感性というのは必要なのです」
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お経にだんだん熱がこもっていき…
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(公社)日本ペストコントロール協会認証技能師。1992年、東京都大田区生まれ。地元の進学校を卒業後、様々な業種を経験し、孤独死・災害現場復旧のリーディングカンパニーである「ブルークリーン」の創業に参画。これまで官公庁から五つ星ホテルまで、さまざまな取引先から依頼を受け、現場作業を実施した経験を基に、YouTubeチャンネル「BLUE CLEAN【公式】」にて特殊清掃現場のリアルを配信中!趣味はプロレス観戦
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