保育園DJインタビュー「知らない四つ打ちの曲のほうが園児は踊ってくれる」
幼稚園児たちがDJのプレイするダンスミュージックに合わせて狂喜乱舞する……。そんな動画が話題になったのは今年の前半。
その動画でDJプレイをしていたのが、DJのアボカズヒロ氏だ。
5月某日、再び関東近郊の保育園で彼がDJプレイを披露するという彼を取材班は直撃した。そのときの様子はこちら⇒【前編】https://nikkan-spa.jp/452511
後編では、彼がなぜ保育園や幼稚園でDJプレイをするようになったのか、その理由に迫ってみよう。
「幼稚園や保育園でDJを始めた当初は、結構個人的な理由だったんです。14歳のときにお小遣いで機材を揃えて以来、DJをしてきたんですが、どこの現場でもフロアのお客さんが“この曲をかけてほしい”というのがわかりやすくなってしまい、お客さんが単に“知ってる曲だから盛り上がってる”だけで、僕のDJやその曲の良さで盛り上がっているのか不安になってしまったんです。そこで、”全然予備知識がない子供の前でプレイしたらどうなんだろう? と思ったのがきっかけでした」
それが、各所で話題になった2004年に撮影された動画だった。
「でも実際に園児たちの前でプレイしたら、園児たちが知ってる曲でもないけど普通に盛り上がってくれたんです。ああ、子供も大人も変わらない、音楽のチカラってやっぱり凄いなって再認識しました。と、同時に気づいたこともあったんです」
アボ氏が保育園DJを通じて気づいたことは、まさしく「音」の力だった。
「大学の活動の一環として、聴覚障害者の方に音楽を楽しませるのはどうしたらいいか活動しているグループに参加したことがあるんです。そこで“クラブが好きだ”という聴覚障害者の方にあったんです。耳が聞こえないにも関わらず、音楽を“体感”しているんですね。好きなDJとかもいるし、”今日はあのDJのここがよかった”とか、普通にそういうテーマの話が出来るんですよ。子どもたちも四つ打ちのベースライン、低音の音圧を体感してくれるんです。これは推測だけど、胎内にいるときに、母親の心音を聞いていたから低音のベースラインに親和性が高いんだと思います」
それゆえ、四つ打ちのハウスなどは子どもたちは自然と乗って踊れるのだという。
「逆に、“知ってる曲”はご覧のように脚が止まるんですね。でも子どもは一度テンションが上がるとリミッターがない。だからすぐに疲れないようにこういう“知ってる曲”を間に挟むと、上手にフロアコントロールできることも分かって来ました。ただ、“知ってる曲”で一度休んだのをまた上げていくのは結構難しくて、知ってる曲に上手にダンスミュージックを合わせていくロングミックス(長い小節を使って徐々に繋げていくこと)しながら踊る気持ちに戻していく技術が必要になってくるんです。また、BPMは120~130くらいが子どもたちが乗りやすいですね。それ以上早くなると、“踊る”というのを超えてしまい、単に“騒ぐ”だけの感情の発露になっちゃうんですよ」
また、音質にも相手が園児ならではの調整を心がけている。
「子どもって可聴周波数帯が広いんですよ。高音も我々大人よりビビッドに聞こえるんです。だからやや高音は絞る感じにしています。ただ、できるだけ解像度の高い音を体感させてあげたい。その意味でも今回ディリゲントさんにちゃんとした機材をお借りできたのはよかったと思います」
「音」を聞くことはあっても「体感」する経験は幼少時には稀な体験。早いうちにこうした体験をするのは情操教育的にもよさそうだが……。
「それでもこうした活動を受け入れてくれる幼稚園や保育園はなかなか少ない。2004年に初めて幼稚園でDJをした際には、僕が自主的に色々な幼稚園に電話をかけて20件目くらいでようやくOKを頂けた。その後は、噂を聞いた保護者の方が呼んでくれそうになっても保護者会で反対されたり。それでも地道に続けてたら次第に受け入れてくれるところも増えたんですが、某アイドルの事件でクラブの印象が悪くなるとまたハードルが高くなってしまった」
とはいえ、この日に協力してくれた保育園でも園長先生から絶賛の言葉を頂いたように、アボ氏が回した幼稚園や保育園ではイベント後はほとんど肯定的な声しか聞こえなかったという。
「日本人の中には、“クラブ”というのが、ある種の不良性を持つ場所として存在していたと思うんです。それがいい面もあったけど、いまさまざまな問題にも繋がっている。僕がこういう場所でDJをすることで、子供のころにダンスミュージックを体感して、音や音楽を純粋に楽しむことを知ると、クラブという場所が特別な場所でもなんでもなくなると思うんです。そして、サウンドシステムから発せられる音に包まれることによって、体を動かす気持ちよさ、それは必ずストリートダンス的なメソッドでのダンスになっていなくてもいいんです。思い思いの動きで、もっというと踊らなくても、そういう音を体験することによってイマジネーションが刺激されるということを体験してくれると良い。いろいろな意味で、子供たちが明日から何かしらの形で人生が豊かになってくれればと思っています」
今後は、フェスの託児所などでも回してみたいというアボ氏。
「いずれは親子でダンスミュージックで盛り上がる……なんていうイベントをやってみたいです。幼稚園・保育園DJも、今後も呼ばれればどこでも回しに行きたいですね」
なお、当日の様子をアボ氏自身が6月8日22時スタートのTBSラジオ「TBS RADIO ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」に出演し、語る予定なのでぜひチェックして頂きたい!
【DJアボカズヒロ(KAZUHIRO ABO)】
’84年青森県生まれ。小学校低学年時代に録音した「電気グルーブのオールナイトニッポン」を聞いてダンス音楽に目覚め、DJを志す。14歳で小遣いを貯めて機材を購入して以来、DJ・トラックメイキングを始める。東京藝術大学には、「クラブカルチャー的視点でアートを考える」というような内容を面接の時にプレゼンして入学。現在は、ダンストラックのみならず、美術作品のための音響製作やファッションショーや映像作品のための音楽/音響製作も手がける
●TBS RADIO ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル http://www.tbsradio.jp/utamaru/
●Dirigent https://www.dirigent.jp/
●渋谷アシッドパンダカフェ http://www.acidpanda.com/
<取材・文/日刊SPA!取材班 協力/Dirigent special thanks/古川耕 渋谷アシッドパンダカフェ>
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