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防潮堤建設に高まる批判の声「不必要な場所に…、地盤沈下の可能性も」

 安倍晋三首相は3月10日・12日の参議院予算委員会で、防潮堤建設の見直しに理解を示す答弁を行った。防潮堤見直しに積極的に取り組んでいる安倍昭恵首相夫人の存在が、首相の答弁に影響したのだろうか。

防潮堤

気仙沼市で建設が始まった防潮堤。海岸を広くコンクリートで覆ってしまうので、景観を壊すだけでなく、漁業や生態系への影響が懸念されている

 2月6日、防潮堤見直し派の住民は気仙沼市本吉町野々下に建設中の巨大防潮堤に昭恵夫人を案内した。海岸にそびえ立つ高さ10mの防潮堤を見たとたん、昭恵夫人は「これはないですね!」と思わず叫んだと述べている。同行した気仙沼市の漁師はこう話す。

「この地区は工事が始まった時期が早く、防潮堤が海岸を破壊している現場を目の当たりにできるんです。この防潮堤は誰も人が住んでいないところに建設されていて、守るものといえば海岸林や畑ぐらいしかない。建設予定地周辺からは、『俺たちは仕事だからやっているけれど、防潮堤で何を守るのかね』と首を傾げています。この工事は、建設業者や地主のためのものとしか思えません。三陸海岸の美しい景観を壊すだけでなく、海と陸が分断されることで漁業への悪影響もあるでしょう」

 防潮堤見直し派は、’13年9月の防潮堤シンポジウムに参加した昭恵夫人に防潮堤のさまざまな問題について説明、それをきっかけに意気投合した。今年2月7日に気仙沼市の防潮堤見直し派が主催したシンポジウム「東北の美しい未来を考えるフォーラムin気仙沼」にも昭恵夫人は来賓として出席。そこでは高校生を含む住民150人から「気仙沼は海とともに生きてきた。高すぎる防潮堤はその生き方を変えてしまう」「海の見えない気仙沼は想像できない。森の養分が海へ流れなくならないか不安」といった声が噴出した。それを受けて、昭恵夫人は「行政の施策に魅力がないと若い人が離れてしまう。見直すべきところはあるので主人にも伝えたい」と発言していたのだ。

「防潮堤についてマジメに考え、覚悟を持って取り組んでいる人は昭恵さん以外、僕は知りません。何人もの偉い人たちが被災地の視察に来て防潮堤問題に理解を示してくれましたが、具体的な動きにつながるわけではありませんでした。『被災地のために頑張っています』との自己アピールにすぎなかった。それに比べて昭恵さんは何度も足を運びながら、防潮堤問題のシンポを主催したり、自民党環境部会など公の場で見直し発言をしたり、積極的に行動しています」(気仙沼市の若手漁師)

 気仙沼市でまちづくり活動をしている若者は、「拙速な防潮堤の建設には、奥尻島(北海道)の教訓がまったく活かされていない」と語る。

「’93年の北海道南西沖地震で津波の被害を受けた奥尻島に視察に行くと、地元の方が『防潮堤建設はいちばん後で良かった』と悔やんでいました。奥尻島には巨大防潮堤ができたのですが、地域振興策が後回しになって、人口減少に歯止めがかからなかった。三陸沿岸の被災地も同じ失敗を繰り返そうとしています」

防潮堤

陸前高田市で始まった防潮堤工事。手前のポールは防潮堤の高さを示している

 防潮堤建設にはさらなるリスクもある。陸前高田市の防潮堤予定地である高田松原海岸は、広田湾奥に流れ込む気仙川が運ぶ土砂で出来た干潟で、数十mの軟弱地盤となっている。その上に重量のある防潮堤を作ることから「豆腐の上に針を突き刺すようなもの」(防潮堤見直し派)で、地盤沈下の危険性があるという。軟弱地盤を固めるために立板を打ち込むなどの地盤改良が不可欠で、工事費が予定よりも大幅に増える事態は十分に考えられる。

 防潮堤建設が高台移転をする住民の安全を脅かす危険性もある。米崎小学校仮設住宅の自治会長の佐藤一男さんは、こんな警告を発する。

「高田松原海岸の軟弱地盤には防潮堤を支えるために干潟に立て板を打ち込むことになっていますが、その結果、地下水(伏流水)の流れが止まり、一帯が沼地のようになる恐れがあります。高台の盛り土部分が土砂崩れをしたり、地震で被害を受けた千葉県浦安と同様、宅地が液状化する危険性があると考えられます。このことを市の担当者に言っても『国が認めたから』『液状化に関するデータはない』などと言って、まともに検証しようとしていません」(佐藤氏)

 仮設住宅暮らしを終えた被災者がようやく建てた新居が、地震で液状化の被害を受ける――こんな事態は何としても避けなければならない。 <取材・文・撮影/日刊SPA!取材班>




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