なにが芸人おさるを「書家・宇都鬼」へと変身させたのか?
思想信条から趣味、嗜好など、人は変わる。人との関係性もまた、変わりゆく。とはいえ、親しい人が突如、予想だにしなかった“変革”を遂げたとき、その変化を受け入れられるのか? 嫌いになれたら楽だが、嫌いになるのも難しいのである
◆ボクが“書道”に目覚めた理由
ゴルフ、クラブDJ、サーフィンなど、“趣味にカネをかけまくるダメ夫”キャラでの露出が多かった芸人おさる。しかし、最近では、もっぱら「書家・宇都鬼」としての活動に注力している。
何がおさるを変えたのか?
「40歳を前に、『人生も折り返しやな』って思ったんです。夏目漱石が教師を辞めて、作家として生きていこうって決めたのも40歳。ボクも本当にやるべきことを見つけなきゃあかんって」
そんなとき、芸人としての付加価値をと考えたマネジャーが、書道雑誌『墨』での連載仕事を取り付ける。実はおさるの母親は書道家で、4歳から中学入学まで、欠かさぬ日課が書写。小学校のときには「ただ書いただけ」の字が、硬筆展の大阪府代表になったこともあるほどの美文字自慢だったのだ。
が、そんな自負も、連載をきっかけに師事した書家・松川昌弘氏の出会いで一転する。
「師匠と同じ筆、同じ墨を使い、その見本を横においても同じように書けないんですよ。なんやこれ!?と。これまでスポーツでも何でも、やればできてきたせいか衝撃で。これが書道の魅力なんだ、と。器用貧乏だった自分が一気にのめり込んでいきました」
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現在、週4日は自宅で育児の後、3~4時間書き、週末になれば師匠のもとへ行き、10時間、教えを請う。書き終えて、布団に入っても、頭の中でぐるぐると文字の配置のことを考えて、夜中3時に跳び起きて筆を持つこともあるとか。
「書道にはいい悪いはあっても、失敗はないんです。最初の一筆、一文字で『あ!』と思っても、次の筆運びで素晴らしい出来になることもある。でも、書き直しは一切できない一発勝負、なんです」
これからは、9月に募集締め切りがある、公募展「東京書作展」に向けての作品制作が本格化する。昨年は部門特別賞を受賞。今年は内閣総理大臣賞を狙う。「本当の武器を手に入れた」と語るおさる。「芸能界一の美文字タレントと言われても意味はない。目指すは世界」と書家としての夢は大きい。
仕事は? 家庭は? と少々心配になるが……妻でタレントの山川恵里佳さんも「あんたの性格は最低だけど、書く文字に魅力がある」「芸人やめて書で食っていく覚悟なら、私が働いて食わせてやる」と応援してくれているとか。
「僕が書に目覚めて、奥さんが芸能活動に目覚めた、と。こんなオチはどうですか?(笑)」
【おさる】
芸人。ピン芸人になり、モンキッキーへと改名し戻し……。芸人としての今後は?と聞くと、「しばらく考えてなかったので」としばし、沈黙
【宇都鬼】
書家。初めて応募した「第33回東京書作展」で優秀賞を受賞。以降、受賞を重ね、昨年は部門特別賞(3011人中上位17人)に輝く。筆が30万円、出品作の額装など、意外とお金がかかる書道。妻には頭が上がらず、「バッグ」と書いた書をプレゼントしているとか
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