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中東以外の国で無差別テロが増加する!?「本当の恐怖はこれから」

 日本で暮らしていると、イスラム世界についての情報に接することは少ない。イスラム国で邦人が人質になったという報道も、今はパタッと途絶えてしまった。実際、現地はどうなっているのか? イスラム国の潜入取材を行い、自らも人質になりかけた報道写真家の横田徹さんと、イラク戦争開戦時から現地を取材し続けてきたジャーナリストの綿井健陽さんに、日本の報道ではわからない「イスラムの姿」について語ってもらった。

◆日本でイメージする「イスラム国」との違い

――日本でイスラム国のことが強く印象付けられたのは一連の動画配信、何と言っても斬首映像の公開だと思います。このことで「残虐なテロ国家」というイメージが強くなりました。

「本当の恐怖はこれから」中東以外の国で無差別テロが増加する!?

米軍の占領に反対するデモを眺めるアリ・サクバン(2003年8月)(C)ソネットエンタテインメント/綿井健陽

横田徹:映像が目的とするのは恐怖感の植え付けでしょう。あれでイスラム国のイメージができたわけですから。でも、イスラム国の人が言っていましたよ。「君たちの国には死刑はないのか?」と。「ある」と答えたら「それとどう違うんだ? 罪を犯したから死刑になるんだろ?」って。イスラム国では死刑とされるだけの罪を犯したのだから、それで処刑されるのは当然のことなんだと。日本との違いは、それを公開するかしないかの違いでしかない。

綿井健陽:世界の他の地域では、日本に死刑制度があるというだけで特異なイメージを持たれる場合もありますね。戦争の現場で、首を切るだけが残虐な行為とは僕にも思えない。だったら罪もない民間人を殺しているイスラエルのガザ攻撃はそれ以上に残虐だし、イラクでは、フセイン政権や米軍もイラク治安部隊も民兵組織も、これまで残虐な行為を繰り返していました。

横田:確かにそうです。アサド軍だって化学兵器を使ったと聞くし、それはもう無差別殺人を意味するので、もっと罪が重いと言えるかもしれません。

――イラク戦争があったから「イスラム国」が生まれた、という風に解釈してもいいでしょうか。

綿井健陽氏

綿井健陽氏

綿井:大元はそうでしょうね。イラクのその後の宗派抗争や内戦状態の混乱の始まりを辿れば、米軍の占領統治の失敗やシーア派政権の横暴もありますが、やはりアメリカの軍事攻撃に行き着きます。あの時アメリカが戦争を開始しなければ、今もフセイン政権は続いていて、ある程度の秩序は保たれていたでしょうし、その後の宗派抗争もなかったでしょう。

横田:リビアのカダフィ政権もそのままで、「アラブの春」もなかったでしょうね。

綿井:そうですね。アラブ世界でいま起きている混乱は生まれなかったでしょうね。そうした混乱の中で「イスラム国」のようなグループが出てきたという印象がありますね。

横田:ただイスラム国が今以上に勢力を拡大するか否かを問うなら、僕は疑問に思っています。「最終的には世界中をイスラム主義にする」と彼らは言っているけど、さすがにそれは無理だとわかっているでしょう。或いはかつてのオスマン・トルコ帝国の領土を手に入れようとしても、現在3~4万人と語られる兵力では全然足りないし。むしろ現在の状態でも石油を売ったりしながら収益を確保できているので、しばらくは現状維持を図るのではないでしょうか?

◆中東まで行かず、自国でテロを起こすほうが簡単

綿井:イスラム国は今年1月にイラク西部の街ファルージャを占拠したけど、すぐ近くの首都バグダッドまでは攻めて来ませんでしたね。今もむやみに進軍していないようだし、その点ではしっかりした戦略があるのかな……と推測もします。横田さんに聞きたいけど、イスラム国のIT技術というのは、どれくらい進んだものですか?

横田:動画の配信を見ると編集技術はプロ並みだなと驚きます。僕が取材したシリア北東部のラッカでは兵士に携帯電話が配られていました。でも砂漠地帯に携帯の電波は来ていないし、前線でパソコンは使えません。その点ではまだ脆弱だと思いますね。

――アメリカを中心とする有志連合の空爆は、どれくらい有効だと思いますか?

横田徹氏

横田徹氏

横田:イスラム国の基地は、空から見ても見つかりません。重要な拠点は、あちこち移動しながら空爆を避けている。だからピンポイントで空爆の指示ができる人などいないでしょう。米軍が落とす砲弾は一発1000万円。その砲弾で、現地では30万くらいで買えるトヨタのピックアップトラックを空爆しているというのが現実です。非常にムダな攻撃で、空爆の効果はほとんどないと言っていい。

 仮に爆撃を受けたとしても、また彼らは秘かに基地らしき施設を移動するでしょう。有志連合がさらに徹底した地上戦を行うとしたら話は別ですが、空爆以上に民間人の犠牲者が増えてしまいます。

――イスラム国のテロ行為は、日本も含む西欧諸国に今度どんな脅威を与えると思いますか?

綿井:10月末にはカナダの連邦議会で銃乱射事件が起きました。このように、中東に行かずに自国で無差別テロを狙うというケースが増えていく気がしますね。

横田:同感ですね。本当に闘いたがっている人間なら、無理してシリアに行くよりも自国でテロを起こす方が簡単です。空爆の心配もないし、成功の可能性が増えますよね。

綿井:彼らがみなイスラム国を本当に支持している人とは思えないです。イスラム国に入ることを志願した北大生も、本心の動機はよくわからない。その「わからなさ」や「不可解さ」が、他の人にとっては恐怖になる。もしもこれからテロを起こす犯人がイスラム国への支持を表明したら、イスラム国への恐怖を更に植え付ける事ができる。だから、イスラム国も犯行声明を否定しないんじゃないでしょうか。

 日本だって、自国で無差別型のテロをやられるのが一番恐怖でしょう。東京でもカナダと同様の事件が起きたら衝撃は大きいし、そういう意味では「イスラム国」の恐怖は、まだまだこれから世界各国に広がるのだと思いますね。

<聞き手/長谷川博一>

【綿井健陽(わたい・たけはる)】1971年、大阪府生まれ。映像ジャーナリスト、映画監督。1998年からフリー・ジャーナリスト集団「アジアプレス・インターナショナル」に参加。これまでにスリランカ民族紛争、スーダン飢餓、東ティモール独立紛争、イラク戦争では2003~2013年の間にバグダッドやサマワ、国内では光市母子殺害事件裁判、福島第一原発事故などを取材。著書に『リトルバーズ 戦火のバグダッドから』(晶文社)、共著に『311を撮る』(岩波書店)ほかがある。2005年「JCJ(日本ジャーナリスト会議)賞」大賞を受賞。2014年ドキュメンタリー映画作品『イラク チグリスに浮かぶ平和』を発表。

【横田徹(よこた・とおる)】1971年、茨城県生まれ。報道写真家。1997年のカンボジア内戦からフリーの写真家として活動を始める。その後、コソボ、パレスチナ、イラク、アフガニスタン、ソマリア、リビア、シリアなど世界の紛争地においてスチール撮影、ドキュメンタリー番組制作を行なっている。写真集に『REBORN AFGHANISTAN』(樹花舎)、共著に『SHOOT ON SIGHT 最前線の報道カメラマン』(辰巳出版)など。2010年、世界の平和・安全保障に期す研究業績を表彰する第6回中曽根康弘賞・奨励賞を受賞。

【『イラク チグリスに浮かぶ平和』上映情報】12月26日(金)まで「第七藝術劇場」(大阪市淀川区)で上映。その後、「神戸アートビレッジセンター」(神戸市兵庫区)、「横川シネマ」(広島市西区)、「横浜シネマリン」(横浜市中区)など各地で順次公開。詳細は公式サイト(http://www.peace-tigris.com/)にて。

リトルバーズ

戦火のバグダッドから




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