更新日:2017年11月16日 19:38
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今更ながら春画展の楽しみ方を個人的に考察してみた【コラムニスト原田まりる】

今更ながら春画展の楽しみ方を個人的に考察してみた【コラムニスト原田まりる】

細川護煕元首相が理事長を務める永青文庫前にて

 芸術なのか、はたまたわいせつなのか、賛否がある――。海外では高い評価を得ながらも、日本では初開催となった春画展(12月23日まで開催)。18歳未満入場禁止ということからもわかるように、春画とは、江戸時代における芸術性の高い“エロい絵”である。しかし、江戸時代当時は単純にエロい絵という認識ではなく「笑い絵」と呼ばれ、性的ではあるものの、どこかクスっと笑ってしまう可笑しみの含まれた娯楽作品として、老若男女に愛されていたようだ。  しかし、それは江戸時代のお話。いま実際目の前にしてみると笑えるものなのだろうか? それとも興奮を覚えるようなものなのだろうか? さまざまな期待を交差させながら、「春画展」と向かった。 ⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=981703  会場は目白にある永青文庫。館内は平日であるにも関わらず混雑しており、客層のほとんどが熟年の夫婦であった。そして、たまに外国人観光客と、おそらく「歴女」と思われる若い女性姿がチラホラ見える程度である。  館内は混雑していて、一列になって牛歩でじっくり春画を見る流れに。男女が寄り添い「まさに今からスタートしますよ」といった低刺激な作品が少々、男女ががっつり絡み合い「いままさに真っ最中ですよ!」といった刺激的な作品が場内のほとんどを占めている。  どの絵も、デフォルメされた局部があらわになっており、でかでかと描かれた女性器は朱色が生々しく、男性器は「焼きすぎたフランスパンか!?」という具合にこれまた巨大に描かれている。そして、男女は、まるで局部を見せつけるかのように腰をねじったり、突き出したり……中国雑技団ばりのアクロバティックな体位でキメポーズをとっている。  大きく描かれた局部にばかり目がいってしまうので、モザイクに慣れた世代としては、目のやりどころに困ってしまう、というのが正直な感想。しかし、この「局部にばかり目がいく」というのには実はカラクリがあって、なんでも江戸時代には前戯と呼ばれる行為がほぼなく、営み開始後すぐにドッキング、それを一晩に何回も行うという形式だったようだ。

当たり前だが、18歳未満の入場は禁止である

 つまりこの時代にエロいとされていたものは、裸やら、胸やらではなく“下半身一点主義”だった様子。そのような時代背景があってか、男女ともに着物を着たまま情事に耽ったものが多く、女性の胸も申し訳程度に添えられた……といった描かれた方しかしていなかった。男性誌で巨乳アイドルがもてはやされる現代とでは、胸の扱いが雲泥の差である。  そして着物を着たまま、という構図には春画をより深く楽しむためのヒントが詰まっている。男女それぞれの服装・背景に着目することにより「高い身分だったのだなあ」とか「じつは、女が男を囲っているのか」と性に貪欲な男女のストーリーを考察することができるからだ。こうしたストーリーの中にツッコミを入れたくなる、クスッと笑ってしまうオチを見つけ出す。これが、春画が「笑い絵」と呼ばれた所以のようだ。  そして中には、ぶっとんだ設定の春画もある。海女が蛸をつかい触手プレイを楽しんでいる絵だったり、女性器の顔をした女性が男性を吸い込んでいる絵だったり……。例えるならば春画は「コント」のワンシーンを切り取ったものを見て、状況を想定し、オチを探す、という楽しみ方ができるのだ。一枚の絵を見て、どういう人物がいて、どういう状況で……と想像を張り巡らせたところで「そーゆーことかいっ!」もしくは「どーゆーことやねん!」と心の中で一人ツッコミをいれる。このツッコミ行為をもってワンセットとなる。ただ、眺めるだけではなく、人物、設定、オチを探し出し、心の中でツッコミを入れてワンセット。館内をみんな牛歩で歩いていたのも、きっちり絵に描かれたストーリーを理解するためだった模様。  そして、現代のエロと比較すると、女性を凌辱するようなものはほぼなく、女性もあけっぴろげで超肉食系というすがすがしいエロがそこには息づいていた。  ちなみに個人的な感想だが、館内を牛歩で練り歩き、じっーと絵を見つめているうちにゲシュタルト崩壊をおこし、ふくよかな女性が真っ白なバーバ・パパに、烏帽子をかぶった鼻の高い男性が川合俊一氏のように思えてきて、最終的にバーバ・パパと川合俊一氏がドッキングしているような不気味な設定に思えてきて笑いがこみ上げてきたのだが、このような笑いは、おそらく本来の楽しみ方ではないと思う。まちがった方向に想像力をつかうと、よくわからない妄想が捗る場合もあるのでご注意を……。 <取材・文/原田まりる> 【プロフィール】 85年生まれ。京都市出身。コラムニスト。哲学ナビゲーター。高校時代より哲学書からさまざまな学びを得てきた。著書は、『私の体を鞭打つ言葉』(サンマーク出版)。レースクイーン、男装ユニット「風男塾」のメンバーを経て執筆業に至る。哲学、漫画、性格類型論(エニアグラム)についての執筆・講演を行う。Twitterは@HaraDA_MariRU 原田まりる オフィシャルサイト⇒ https://haradamariru.amebaownd.com/
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