ピュアオーディオファンとDJが歓喜した伝説の名機SL-1200復活の軌跡
オーディオ全盛期に誕生し、ピュアオーディオファンはもちろん、世界中のDJたちに愛されたレコードプレーヤーの名機「SL-1200」シリーズ。2010年に惜しまれながら販売を終了するも、すべてを一新して蘇った。
2016年、ピュアオーディオファンとDJが歓喜するニュースが届いた。それは、パナソニックのTechnics(テクニクス)が手掛けるレコードプレイヤー「SL-1200」の復活だ。
「初代SL-1200は1972年に誕生しました。最大の特徴は、ターンテーブルにダイレクトドライブ方式を採用したことです」とは、復活劇のキーマンの一人、パナソニックの上松泰直氏。
●上松泰直氏……パナソニックAVC商品部チャンネル戦略企画課Technics担当課長。特に印象に残っているシリーズは「SL-1200LTD」
ダイレクトドライブは、SL-1200シリーズの原点にあたる「SP-10」(1970年)に初めて搭載された。ターンテーブルが、低速回転のモーターに直接結合されており、その回転をダイレクトに感じられるのが大きな魅力だ。さらに、ゴムの消耗に伴う回転ムラや回転数の変化、ベルトの振動による雑音の解消などにも成功。起動の早さや優れた安定性も人気を博し、ダイレクトドライブ方式のターンテーブルは、登場から50年近くたっても、SL-1200シリーズに受け継がれているのだ。
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「SL-1200シリーズは、デザインやボタンなどの配置をほとんど変えずに継承しています。初代からSL-1200MK2(1979年)のときに大きく改良した後は、少しずつ改良を行ってきました」
その理由は、SL-1200シリーズが世界中のDJたちに、「楽器」として長年愛用されているからにほかならない。SL-1200は、もともとオーディオマニアに向けたピュアオーディオという位置付けで発売されたが、アメリカを中心にディスコ・クラブブームが巻き起こると、DJたちにそのスペックが注目される。SL-1200の強靭なトルクや回転ムラの少なさは、キューイング(レコード盤を戻して曲の頭出しを行うテクニック)を容易にし、振動に強いキャビネットと耐久性に優れた作りは、ディスコやクラブでの激しいプレイを可能にしたのだ。DJたちがターンテーブルに求めるニーズに、自然と応じることができたSL-1200は、ディスコ・クラブシーンにおいて、スタンダードな存在になっていった。
「この現象は、弊社が予想していないものでした。現地を視察した当時の責任者や技術設計者は、DJたちがSL-1200を楽器のように扱う姿に驚愕したようです。ただ、こうした状況を意図した使用方法とは違うと拒絶せず、むしろピュアオーディオとしての機能を保ちながら、DJたちがさらにプレイしやすいターンテーブルを開発しようと決めました。こうして誕生したのが、先述したSL-1200MK2になります」
DJ用の側面を持つSL-1200MK2は、水晶発振器やフェダー式のコントローラー、針先にスタイラスイルミネーターなどを採用。キャビネット部分の防振構造もさらに強化され、精度の高い回転制御が行えるようになったほか、薄暗い室内でも針先が見えやすいなど、楽器としての使い勝手が大幅に向上した。こうしてヨーロッパなどでは、1979年から30年以上にわたって販売され続けた、ロングセラーモデルとなる。
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