ザ・ロック ハリウッドが求めたチャンピオン――フミ斎藤のプロレス講座別冊レジェンド100<第88話>
あまりにもビッグな存在になり過ぎてプロレスのリングからはみ出してハリウッドのビッグ・スクリーンへと巣立っていった突然変異的スーパースターである。
ストーンコールドとともに“おしゃべりのできるプロレスラー”という新しいスタイライゼーション=様式をクリエイトした“時代の子”だった。
ザ・ロックは数かずのオリジナルのキャッチフレーズを発明した。いちばんポピュラーなものは“イフ・ユー・スメル・ワット・ザ・ロック・イズ・クッキングIf you smell what the Rock is cooking”。
ひじょうに和訳がむずかしいフレーズで、直訳すると“ロックがクッキングしているものの香りをかぐことができるならば―”となるが、これではいったいなんのことかわからない。
ここでいう“クッキングcooking”は料理をすることではなくて、熱をこめて元気に行動すること、いままさに起きていること、ガンガンいくこと、大暴れすることという意味のスラングで、ニュアンスとしては「ロックのガンガン、ビンビンに感じてるか?」といった感じなのだろう。
“ノー・ユア・ロールKnow your role(and shut your mouth)”は直訳が“自分の役割を知れ(そして黙ってろ)”で、口語的には“身のほど知らずめ”“立場をわきまえろ”となる。
“ルーディー・プーroody poo(汚いフン)”や“キャンディー・アスcandy ass(ツルツルのケツ、白人野郎)”のように短い連語で相手を罵倒するフレーズもあれば、“レイ・ザ・スマックダウン(Layeth’ the smack down殴り倒してやる、コテンパンにしてやる)”や“ジャブローニjabroni(とるに足らないヤツ、負け役)”のような完全な造語パターンもある。
そこにいる相手とのアジテーションのキャッチボールでは“イット・ダズント・マター・ワット・ユー・シンクIt does’n matter what you think(オメーの考えなんて知ったこっちゃねー)”と“ジャスト・ブリング・イットJust bring it(持って来い、かかってこい)”が宣戦布告のフレーズに使われる。
観客はロックの定番のキャッチフレーズの数かずとその用法をはじめから終わりまでちゃんと暗記していて、それぞれのセンテンスの頭のところからロックと観客の大合唱になる。
キャッチフレーズはそのままTシャツのレタリングにもなって、ひとつの決まり文句が定着するたびにそのフレーズがつづられたTシャツがヒット商品に化けた。
もちろん、ロックがマイクをつかんで何度も何度もそれを口にすることでひとつひとつのキャッチフレーズに命が吹き込まれていった。
ロックは由緒正しいレスリング・ファミリーの生まれである。祖父“ハイ・チーフ”ピーター・メイビア“High Cheif”Peter Maiviaは1960年代に一世を風びしたサモア系の名レスラーで、祖母リア・メイビアLia Maiviaはハワイの大物プロモーター。
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