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安倍氏殺害の山上容疑者「精神鑑定で4か月も留置」は口封じの政治的拘束か

起訴前鑑定で異例の4か月留置

安倍晋三元首相(撮影・横田一)

安倍晋三元首相(撮影・横田一)

 安倍晋三衆議院議員(元首相)が7月8日午前11時半ごろ、奈良市で参院選の応援演説中に銃撃され死亡した事件で、現行犯逮捕された奈良市在住の山上徹也容疑者(41歳)が7月25日から精神鑑定を受けている。奈良地裁が7月25日、奈良地検の鑑定請求(7月23日)を認めた。  山上容疑者は7月10日に殺人容疑で地検に送検された後も、奈良西署に勾留されていたが、勾留満期の29日を待たず、25日に鑑定のため大阪拘置所に移送された。鑑定は11月29日まで4か月実施される。鑑定留置は、専門医が成育歴や生活状況、犯行時の精神状態などを詳しく調べるための手続きで、精神鑑定の結果をふまえ、地検が刑事責任能力を判断する。山上容疑者の起訴は早くても今年末となる。  報道各社は、彼が取り調べで話したとされる「供述」情報を垂れ流してきたが、裁判所は「容疑者の精神状態、責任能力があるかどうかを専門家に聞く」というのだ。安倍氏と「世界平和統一家庭連合」(旧・統一協会、以下、統一協会とする)の関係が取り上げられるのを先延ばしするための政治的作戦としか思えない。  またメディアは<山上容疑者は遅くとも去年3月から銃の製造を始めるなど計画的に犯行を準備していた一方で、動機には論理の飛躍がみられる>(毎日放送)、<山上容疑者は計画的に行動する一方、安倍氏を襲撃した動機の論理に飛躍がある>(読売新聞)と強調した。  しかし、山上容疑者の主張に論理の飛躍はないと筆者は思う。報道各社は<(旧統一協会への恨みから)つながりがあると思い込んだ安倍氏を狙ったと供述。一方で、事件前に書いた手紙では「(安倍氏は)本来の敵ではないともつづっていた>(7月26日『朝日新聞』)と報じた。メディアは、安倍氏と統一協会に深い関係があると「思い込んだ」と強調した。

鑑定留置の間、警察の取り調べはほとんどできなくなった

2016年5月27日オバマ米大統領広島訪問に同行した安倍晋三氏

2016年5月27日、オバマ米大統領広島訪問に同行した安倍晋三・元首相(筆者撮影)

 奈良県警は逮捕直後に、山上容疑者の氏名・住所などを県警記者クラブに広報した。筆者は奈良県情報開示条例に基づき、県警捜査1課と奈良西警察署が事件発生の7月8日から14日までにクラブに提供した広報文の複写を入手した。  開示された文書によると、広報文は➀被疑者の逮捕②被害者の死亡③解剖結果(死因)と7月8日と9日の県警の記者会見(8日・刑事部長ら3人、9日・県警本部長)の連絡文の5枚だけだった。県警は、山上容疑者の「供述」に関しては、8日の会見での口頭説明以外、一度も広報していない。  県警幹部は、山上容疑者の母親が1億円を超える献金などをした統一協会に恨みを抱き、協会幹部を攻撃するのが難しいと判断し、祖父の岸信介・元首相時代から協会と深い繋がりのある安倍氏を狙ったなどと供述していることを公式・非公式ルートで、記者クラブ加盟の報道各社に伝えてきた。しかし、鑑定留置の間、警察の取り調べはほとんどできなくなった。  県警と記者クラブの二人三脚による「自供」報道はそのまま信用できないが、山上容疑者の伯父の元弁護士が7月14日などに報道各社に行った説明は信頼できると思う。
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メディアは「安倍元総理の政治信条への恨みではない」と強調
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1948年生まれ、ジャーナリスト。元共同通信記者、元同志社大学教授。『犯罪報道の犯罪』ほか著書多数
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