東京のアングライベントは東京五輪でも消えない【アングラガイド本著者インタビュー】
アイドルユニット「BiS」を呼んでライブを行なったり、ニコニコ生放送で会場の様子を公開するなど、アングラというには開かれた存在のようにもみえる。
もはや東京のアングライベントは、ネットなどでも情報が溢れ、海外観光客からも注目される存在になっており、本来的な意味の「アンダーグラウンド」な存在ではなくなっている。ごく僅かな愛好家の間で密かに嗜まれるマニアックな存在から、なぜこのように内外からの注目を集める存在になったのか?
11月10日に発売されたフォトガイドブック「アンダーグラウンド イベント 東京」を手がけた、写真家のフクサコアヤコ氏と写真コミュニティ「Photo’s Gate」のメンバーで同著プロデューサーの島谷氏に、東京のアングライベントシーンの魅力について話を聞いた。
――アングライベントの魅力は何でしょうか?
フクサコアヤコ「フェティッシュイベントに来ている人は、そこにいるための表現手段として日常生活では着られない衣装やメイクをして生き生きとしています。主体はあくまで衣装。対照的に、ハロウィンのコスプレは周囲にちやほやされたい、自分がかわいいというラインを超えない表現だと思うんです」
島谷「『Photo’s Gate』の主旨は、写真を通して何かの扉を開くことです。今回の本も、アングラ界隈に一般の人が触れる機会になればと思い作りました。最近のクラブや異業種交流会的なイベントは、乱立しすぎて相対的に価値が下がっている印象を受けていました。そのなかで、何年も続いているアングライベントは他では真似できないオリジナルな魅力があります」
⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=546015
――近年「女装子」がテレビで紹介されるなど注目されていますが。
島谷「今の女装ブームは、コスプレから広がったと思っています。女性キャラになりたいという欲求なので、男性が思う理想女のコ像を目指す人が多い印象です。女装した時の名前も、『姫』とか『美』という文字をよく見かけます」
フクサコアヤコ「服装も女性から見ると少し野暮ったくて、『田舎に置いてきた恋人』みたいな人を見かけます。街中では見かけないような、ハンドバッグを肩からかけるようなスタイルですね。撮影をしている時に、女の子として扱うことで、ノリノリになっていくのがよく分かります」
島谷「これは、女装だけの話ではないのですが、世の中は基本的にマジョリティのためのルールや環境で出来ていますよね。その中で、マイノリティが『他人とズレてるけどいいじゃん!』と、自分主体で開き直ってしまう活動については、やり過ぎると敵を作ってしまうので、どうかなと思います。その場だから許容されるカルチャーなので、外では出すぎないことが大事という面もあると思います」
フクサコアヤコ「とはいえ、女装はファッションとして成立しそうな気もします。『プロパガンダ』主宰者のMOCAさんは、空気を呼んで他人を強く差別しない、指差して笑ったりしない国民性から、日本の女装カルチャーは世界でも突出していると言っていました。実際、女装者に対して厳しかった新宿二丁目も、今では女装系の店も増え、平気で歩けるようになってきています」
――東京のアングライベントシーンは、今後どの様に変わっていくのでしょうか?
島谷「2020年の東京五輪に向けて、アングラな世界について全く知らない人による規制が加速する心配もあります。たとえば、現在ではアニメ・マンガが好きという10代の中高生はマイノリティーではありませんが、『オタク=犯罪者予備軍』といった見方が強い時代もありました。この様な意識の差から、分からないものを排除しようという力に潰される可能性もあります」
フクサコアヤコ「もし潰されたとしても、また新しいイベントが生まれるだけだとは思います。アングライベントも、コミケやデザインフェスタも、表現欲求という核となる部分は共通していて、作品とイベントという形が違うだけ。あと、今あるイベントってやっぱりカウンターカルチャーとして大きな波が起きて始まったところから、今は惰性で続いてるところがあると思うんです。だから、また新しい大きな波が来るのであれば、それこそ面白いですよね」
島谷「アングラは迫害されてなんぼの世界。アニソンクラブイベントで活躍するアニソンDJも、昔はクラブシーンから迫害されていたそうです。それでも続けてきて、いま『リアニメーション』などのイベントで注目されている。他人やシーンがどうのこうのではなくて、自分がしたい表現方法はこれしかないという人たちの熱はやはり凄いです」
――最後に、アングライベントに行ったことがない人が、イベントを楽しむ方法を教えてください。
島谷「まず、アングライベントというと閉鎖的な印象を持つ人もいますが、自ら閉じなければ、中にいる人たちから拒絶されることはありません。あと、同性愛者に襲われると思う人もいますが、それは自意識過剰です。相手にも選ぶ権利がありますから(笑)」
フクサコアヤコ「お喋りして交流することがメインのサロン型のイベントへ、フットワークの軽い後輩など、興味を持った物に対しての取り組み方が近い人と行くと楽しめると思います。ちなみに、女性のほうが抵抗なく場に溶け込みます。ムチを打ちたがる女性や、軽く縛られたいと申し出る人も多いです」
島谷「何かしら生きづらさを感じている人は、とりあえず行ってみてほしい。そこが自分が存在できる場所と思えるかもしれない」
フクサコアヤコ「あと、自分が持っている価値観を置いて馴染むことが大事です。ちやほやされて当たり前だと思っている女性が、そのままの価値観で会場に来て、むくれているなんてこともあります。ある場所では、一般的にかわいい子よりも、全身タイツの方がその場では価値が高い。海外旅行先で現地のマナーやルールを守るのと同じ様に、理解して順応することが必要です。会場では一声かければ撮影させてくれる人も多いので、どんどん声をかけてみましょう。アングライベントは、カルチャーを尊重し飛び込んできた人を受け入れてくれる世界です」
【アンダーグラウンド イベント 東京】
東京の地下で日夜行われ活況を呈する妖しいイベントを膨大な写真とともに紹介するフォトガイドブック。フェティッシ、アンダーグラウンド、セクシャルマイノリティ、サブカル&オタクの4ジャンルのイベントの詳細が掲載されている。芸術新聞社/好評発売中/2310円(税込)
【フクサコアヤコ】
写真家。Photo’s Gate代表。アンダーグラウンドシーンを中心に活動し、日本初のフェティッシュ雑誌『INFAMOUS MAGAZINE』オフィシャルカメラマンも務める Twitterアカウント:@ayako2935
【Photo’s Gate】
プロアマ問わず誰でも参加可能な写真コミュニティ。月1回の定例写真交流会のほか、Facebookページ上での交流も活発
https://www.facebook.com/photos.gate.fan
<取材・文/林健太 写真提供/フクサコアヤコ>
デパートメントH、プロパガンダ、東京デカダンスetc……東京では毎月どこかでSMや人体改造などのアングラカルチャーをテーマに、レズやゲイなどのセクシャルマイノリティーたちが集まるパーティーが開催されている。これらのイベントは、近年注目された「女装子」などのキーワードとともに、全く縁がない人もネットなどで目にしたことがあるのではないだろうか。
たとえば、女装・ニューハーフイベント「プロパガンダ」では、
『アンダーグラウンド イベント 東京』 総計80ページの写真や主宰者インタビューは必見 |
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