「安保法制が整っても日本は何も変わりません」佐藤優
【佐藤優のインテリジェンス人生相談】
“外務省のラスプーチン“と呼ばれた諜報のプロが、その経験をもとに、読者の悩みに答える!
◆「安保法案成立で日本はどう変わるのか?」おじいちゃん子(ペンネーム)会社員・男性・40歳
私は消極的な安保賛成派です。理由は、日本が危険なときだけ助けてもらって、アメリカがテロに襲われたときはお金を出すだけなんて虫がよすぎると思ってしまうからです。
安保法案が成立して中国や北朝鮮が反発している? ならば、もっと個別的自衛権を行使して、自国防衛に努めるべきです。日本だけで解決できない問題を解決する一つの手段として集団的自衛権というカードは必要と感じざるをえません。ただ、集団的自衛権の解釈を閣議決定だけで変更したりするやり方には賛同できません。
佐藤さんと池上彰さんの『新・戦争論』から、安保法案に多くの矛盾点があることにも気づかされました。そのうえで、お聞きしたい。矛盾だらけの安保法案が成立して日本の外交、安全保障はどのように変わると思われているのでしょうか?
◆佐藤優の回答
結論から言うと、何も変わりません。安保法制が整ったからといって、明日、日本が戦争に巻き込まれることはありません。これで、日本の安保体制が飛躍的に強化されたことにもなりません。本件で最も冷静な対応をしているのは公明党です。私と公明党の山口那津男代表との間でこんなやりとりをしました。
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山口:法律の面でも現実の面でも、国際社会に合わせなきゃならないという圧力がとても強かったですね。しかし日本のような憲法、そして考え方をとっている国はほかにありませんので、そこを外してしまうと引きずられてしまう。ですから「これまでの日本の憲法の考え方、あくまで日本の憲法中心にいくのですよ。国際集団安全保障があったとしても、それは日本の憲法に合う部分はともにやってもいいけれど、 憲法を捨てて国際的な流れに追随していくということはいけませんよ」ということをはっきり決めておくことが大事であると……。
佐藤:これはいまも変わっていないわけですね。
山口:はい、変わっていません。 ここは非常に重要です。
佐藤:(中略)あと、もう一つ、去年の七月二日の公明新聞に〈外国の防衛それ自体を目的とする、いわゆる集団的自衛権は今後とも認めない。憲法上、許される自衛の措置は自国防衛のみに限られる。いわば個別的自衛権に匹敵するような事態にのみ発動されるとの憲法上の歯止めをかけ、憲法の規範性を確保した〉とあります。ここのところもいまも変わっていないですね?
山口:変わっていません。集団的自衛権というのは、あくまで国際法の考え方だと申し上げました。国際法からいくと、自分の国を守るためのものも、それから仲のいい他国を守るための武力行使も両方含まれているんですね。ですから両方含まれた概念でいま、集団的自衛権、集団的自衛権とレッテルを貼って非難をする人が各党にいますけれど、そうではない。日本の憲法の考え方はあくまで日本を守るために武力を使うことは許されている。その限界をきちんと決めましょうというのが私たちのアプローチです。他国を守るためだけに日本が武力を使うということ、その意味での本来的自衛権は認めませんということをはっきり申し上げて、安倍総理もそのことははっきりおっしゃっているわけです。(『90分でわかる日本の危機』129~130頁)
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私も安保法制については、あなたと同じく消極的賛成論です。理由は、過去、自衛隊が行ったインド洋での給油やイラクでの後方支援は、くねくねした理屈で個別的自衛権で説明するよりも、集団的自衛権としたほうが、国際法的に説得力があるからです。ただし、安保法制を手放しで支持できないのは、この法制を濫用して自衛隊を個別的自衛権と関係なしに地球の裏まで送ることを考えている外務官僚と自民党の国会議員がいるからです。
【今回の教訓】
安保法制が整っても何も変わりません
●『90分でわかる日本の危機』発売記念 佐藤優サイン会
※いずれも定員80名。電話予約可能
・10月23日(金)13:00から
ブックエース成田赤坂店(千葉県成田市) 電話0476-29-6650
・11月5日(木)14:00から
浜書房バーズ店(横浜市港南区) 電話045-831-6939
◆募集
佐藤優さんへの相談を募集中。匿名希望の方はペンネームを記入してください。採用者には記念品をお送り致します。
⇒応募はコチラから https://nikkan-spa.jp/icol_form
【佐藤優】
’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』のなど著書多数。最新刊は『90分でわかる日本の危機』’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』など著書多数
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