「どうやら俺は韓国でモテるのかもしれない」――46歳のバツイチおじさんはコリアン美女をデートに誘った 〈第7話〉
突然、嫁さんにフラれて独身になったTVディレクター。御年、46歳。英語もロクにしゃべれない彼が選んだ道は、新たな花嫁を探す世界一周旅行だった――。当サイトにて、2015年から約4年にわたり人気連載として大いに注目を集めた「英語力ゼロのバツいちおじさんが挑む世界一周花嫁探しの旅」がこの度、単行本化される。本連載では描き切れなかった結末まで、余すことなく一冊にまとめたという。その偉業を祝し、連載第1回目からの全文再配信を決定。第1回からプレイバックする!
* * *
英語も喋れないのにたった一人で世界一周の旅に出ることになった「46歳のバツイチおじさん」によるズンドコ旅行記、今回も1か国目・韓国編での日々を本人自ら綴っています。前回、ソウルの夜の街で変な正義感に目覚めるも、ただの「空気読めなかったおじさん」だったということが判明。失意のうちに韓国初日の夜が更けていったのでした。さて、韓国二日目の今回は、英語も韓国語もまったく喋れないバツイチおじさんがいきなり花嫁候補と出会う!?
【第7話 ソウルで美女に助けられ、軽く恋に落ちる】
朝起きて、昨晩石鹸で手洗いした洗濯物をチェックした。
全然乾いてない。
「綿製品はなかなか乾かないんだ」そんな当たり前のことを初めて知った。
さて、今日はどこに行こうか? それともこのまま寝ようか?
あてのない一人旅。何からも縛れることはない。
……いや、違う。花嫁探しの旅だ。
ホテルでゴロゴロして出会えるわけなんかない。
俺はMacBookAirを取り出し、ソウルの街の情報をチェックすることにした。
しかし――。
「あっ、MacBookAirのコンセントアダプター忘れた!」
また忘れ物だ。ほんとに、異様なほど物忘れがひどい。
これからこの連載を書いたりするのに困るので、ソウルにあるAppleStoreをNexus5で検索し、明洞に向かい買うことにした。
韓国の地下鉄の切符の券売機は韓国語、英語、そして日本語のガイダンスがある。なので、夜のソウルでホテルの場所がわからず遭難しかけた俺でも余裕で乗ることができた。
地下鉄に乗っている人々の顔を眺める。
日本と変わらぬその光景。
文字だけがハングル文字。
似ているようで少し違う。
ちょっとした異国情緒。
日本のおばさまが韓流にハマるのも少しわかる。
不思議なおばさまがいるのも日本と一緒。
いや、不思議すぎる人も中にはいたけど。
明洞駅を降りAppleStoreに向かっていると、
韓国のテレビ番組がロケをしていた。
おそらく情報番組だろう。
ディレクターが支持を出しADが走り回っている。
この光景も日本と変わらない。
可愛いな~、話しかけようかな~。
旅の解放感からか、少しだけテンションが上がる。
が、ロケをしている時にこういう野次馬が一番困るのだ。
俺は話しかけるのをあきらめた。
旅行記を書くために面白を仕掛けるのは寒い。
その足でAppleStoreに向かい、アダプターを買った。
微妙にコンセントが違う。
持ってきた延長コードにうまくささらない。
ここにもちょっとだけ“違う”があった。
だが、ないと困るので購入した。
明洞を離れ歩いていると、スマホにメッセージが入った。
ゴールデン街の老舗バー「深夜+1」 の須永裕介からだ。
「サンス駅に知り合いがやってるいいBARがありますよ。名前はわからないんですけど、住所は24-4 Seogang-dongです」
今夜の目的地は決まった。
俺は近くの焼肉屋に入り、冷えたビールを飲んだ。
悪くない。
焼肉を食べ、会計を済まし、名前の分からぬその店に向かった。
しかし、GoogleMapを頼りに探し回るも、全然見つからない。
このままでは、今夜も遭難だ……。
だが、今日は23㎏のバックパックを背負ってるわけではない。
頭は冴えていた。
英語も韓国語も喋れない俺は、道行く人にGoogleMapを見せ、「この店に行きたいんですが…」とジェスチャーと日本語で聞いて回った。
すると、一人の女性が「私、少しなら日本語話せますよ。どうかしたんですか?」と言ってくれた。
綺麗な日本語を使いこなす女性の名前はSeonyong Maさん。龍仁大学出身の大学生らしい。BARへの行き方を聞くと、自分のサムソンのスマホで一生懸命調べてくれ、友達にまで電話をして、場所を細かく調べ上げてくれた。
なんて優しい人なんだ。
その後、日本語で店への行き方を詳しく教えてくれた。
本当にありがたい。
お礼をしたくなった。
俺「少し、ビールでも飲みませんか? お礼におごります」
彼女はびっくりした顔をし、ほほを赤く染めた。
そして、下を向き、少し考えてからこう言った。
seonyong「……私、行きたいビアBARがあるんです」
恥ずかしそうにそうつぶやいた彼女に、思わず胸が高鳴った。
そのビアBARは、カフェバーのような洒落た店だった。
やはり女性はカフェが好きだ。
彼女はリンゴでできたビールを頼んだ。俺も同じビールを頼んだ。
俺「美味しいですね」
seonyong「はい~」
「はい~」という返事が胸にズキュンと刺さった。
サザエさんに出てくるイクラちゃんのような、愛くるしい「はい~」だ。
そして彼女のあどけない笑顔。
なんて純粋な笑顔なんだ。
イクラちゃん並みに純粋だ!
俺「今、世界一周花嫁探しの旅をやってるんですよ」
seonyong「はい~、面白いです~」
なんかウケてる。
俺、ここのところ日本でこんなにウケたことなんてない。
いける! 何がいけるかわからないが、なんだか今日いけそうな気がする!
彼女は大阪に住んでいた経験があるらしく、日本のことが大好きなようだ。
ビールを飲みながら日本のアニメの話や、日本のLINE感覚で韓国ではカカオトークが流行ってるなどの話で盛り上がった。
Seonyong「カカオトーク交換しませんか?」
思えば日本で、女性から「LINEを交換しませんか?」など言われたことがない。文化交流?
いや、もしかすると俺に一目惚れしたのかもしれない。
その可能性は捨てきれない。
俺「どうやってID作るんですか?」
Seonyong「はい~、貸してください」
彼女は俺にすごく近づき、カカオトークでIDを作った。
そのとき、俺と彼女の距離は15㎝。
距離が異様に近い。これは韓国人のパーソナルスペースなのか?
髪の毛からシャンプーの匂いがする。
エキゾチック、なんかエキゾチックだ! いける!
どうやら俺は韓国でモテるのかもしれない。
異国の恋に俺の胸は高鳴った。そして、俺は意を決して誘ってみた。
俺 「さっき探してもらったBARに、このあと一緒に行きませんか?」
すると彼女は笑顔でこう言った。
seonyong「ごめんなさい。実は明日、日本に行くんです。大阪の友達に会いに行くので、朝が早いんです」
断られた。
優しく。
少しへこんだ。
いや、軽い女に見られないために断っただけなのかもしれない。
もう一度、もう一度だけ、押してみよう!
そう思った矢先に、彼女はバックの中をゴソゴソ探し出し、何かを取り出した。
seonyong「お詫びというか、世界一周の激励にこれプレゼントします。さっき買ったんです」
俺「え?」
seonyong「チョコレートです。疲れた時に食べてください」
俺 「……」
俺は、大分県にある南大分中というヤンキー中学の2年生だった時、学校の近くのカットサロン青山で「マッチカット」にした。マッチとはもちろん近藤真彦のことだ。すると、ほんのり人気が出て、後輩を含め複数の女子からバレンタインデーのチョコレートをもらった。
いわゆるモテキである。
さらに、モテは加速し「るんるん八時だ火曜大作戦」というローカルラジオのリスナーに「南中バスケ部7番様」というタイトルで投稿され、愛のポエム調で告白された。するとヤンキー中学での人気が加速し、結構な数の愛の告白を受けた。それ以来、超久しぶりに女性からチョコレートのプレゼントをもらったのだ(大分の母ちゃんは除く)。
俺は舞い上がった。
テ~、テテテテレテレテ~♪
突然、頭の中で「男はつらいよ」の寅さんのテーマソングが鳴った。
そして、頭の中の寅さんが俺に優しく話しかけてくる。
「この人のためだったら命なんかいらない。もう死んじゃってもいい、そう思う。それが愛ってもんじゃないのかい?」
そうだよな、寅さん。
俺は意を決した。
男なら、やらねばならない時がある。
まずはあれを確かめなければ!
俺「彼氏いるんですか?」
勇気を出して聞いてみた。すると……
seonyong「はい~」
イクラちゃんだった。
イクラちゃんのようなあどけないイントネーションで
残酷な真実を知らされた。
seonyong「この後、会います~」
テ~、テテテテレテレテ~♪
また、頭の中で「男はつらいよ」の寅さんのテーマソングが鳴り響く。
そして、寅さんがふたたび俺に語りかけてきた。
「青年、女に振られた時はじっと耐えて、一言も口を利かず、黙って背中を見せて去るのが、男っていうものじゃないのかい」
うん。そうだ。ここは男なら、日本男児なら、かっこつけなきゃならぬとこ。
しかし、俺にはまだ、寅さんほどの器量はない。
俺「良かったら記念に、一緒に写真を撮ってください!」
seonyong「はい~」
また、イクラちゃんだった。
このあどけなさが、撃沈した俺の悲しみを増幅させる。
俺は顔で笑って心で泣いて、一緒に記念写真を撮った。
写真を改めていると、向こうにとってはお父さんくらいの年齢なんだろうな。
見知らぬ初老の男性が、挙動不審で困ってるから、助けただけなんだろうな。
お年寄りを敬う。これが儒教文化か。
その後、俺は一人でソウルのはずれにある裕介紹介のバーになんとかたどり着いた。なかなか渋い。ソウル版の「深夜+1」のような店だ。
「深夜+1」と同じく、この店でも客同士が仲良くなる。
どうやら映画の脚本家、テレビプロデューサーなど業界人が集まる店のようだ。客筋がとても良い。
面白い人は顔でわかる。相手をよく観察している。
俺は片言の英語でなんとかコミュニケーションをとった。
しばらくすると隣にキャリアウーマン風の女性が座ってきた。
彼女の名前はSiwon Choiさん。
酒豪でパワフルな女性だ。雰囲気から知性を感じる。
話を聞いていると、どうやらバックパッカーでアフリカを一周したことがあるらしい。
片言の英語でコミュニケーションをとるも、うまくいかない。
いろいろ聞きたいが、英語が出てこず深いとこまで話ができないのだ。
もどかしい……。
それでも二人で赤ワインを2本空け、盛り上がった。
酒はコミュニケーションツールとして最高だ。
すると彼女は酔っ払い、肩に手をかけてきた。
またしても緊張した。
韓国の女性は実に積極的だ。
結婚してからいつも目黒のスナックで同世代のおっさんと語りあっていた。
それはそれで楽しい。
だけど、これだよ! これこれ!
このドキドキ感が大切なんだ。
俺のテンションはMAXにあがった。
「俺は旅に出たんだ!」
全身で喜びを表現して写真を撮った。
だが、酒の力をもってしても片言のコミュニケーションには限界があった。
最後まで、全然深い話ができない。
俺は泥酔してしまい、ふらふらになった。
そろそろお店も終わりの時間だ。
店を出ると彼女と再び会う約束をした。
「もう少ししたら、英語がしゃべれるようになるから、その時また飲もうね!」
彼女とマスターが見送ってくれ、ちゃんとたどり着くようタクシーの運転手にホテルの住所を細かく伝えてくれた。
帰りのタクシーで少し冷静になった。
お互いが理解し合うために言語はとても重要だ。
こんなに素敵な出会いをしても、喋れなければもどかしさは募る一方。
今までは「英語が喋れなくてもなんとかなる」と思い込んでいたけど、
それはまったくの勘違いだった。
やはり、英語を話せるか話せないかで、同じ世界一周でも旅から
得られるものがまったく違うと痛感した。
このままじゃ、まして花嫁なんかもらえるわけがない。
「俺は、英語を0から学ぶ必要がある」
翌日、俺は仁川国際空港に向かった。
LCCの深夜便でフィリピンのセブ島に向かうためだ。
そこにある「韓国式スパルタ英語学校」に一か月間留学する。
そう、俺はセブで生まれ変わる。
セブで俺は「口下手な寅さん」と別れを告げるのだ。
次号予告「セブなのに韓国式!? 謎に包まれた全寮制スパルタ英語学校でバツイチおじさんは生まれ変われるのか!?」を乞うご期待!
1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
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