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PROFILE

森巣博
森巣博
1948年日本生まれ。雑誌編集者を経て、70年代よりロンドンのカジノでゲーム賭博を生業とする。自称「兼業作家」。『無境界の人』『越境者たち』『非国民』『二度と戻らぬ』『賭けるゆえに我あり』など、著書多数。

番外編その5:知られざるジャンケット(1)

「ジャンケット(JUNKET)」と呼ばれるカジノ関連の業種がある。

 日本では、「カジノ仲介業」と翻訳されている。

 2011年夏に発覚した「大王製紙前会長特別背任事件」で、ジャンケット業者が井川意高をマカオで連れ回したと報道されたから、読者の記憶にまだ残っているかもしれない。

 この稿を書いている時点では、国会における『特定複合観光施設区域整備法(IR整備法/カジノ設置法。以下「IR実施法」と表記)』の行方は、まだ不透明な状態にある。

 その『IR実施法』の原案では、「いわゆる『ジャンケット』」は認めない」そうだ。

 まあシンガポールでも、リゾート・ワールド・セントーサ(RWS)とマリーナ・ベイ・サンズ(MBS)に政府がカジノ・コンセッションを出した際、ジャンケットは禁止されていた。

 ところがプレミアム・フロアで打つ海外からの顧客の足が遠のくと、シンガポール政府も結局これを認めるようになってしまった。

 いやいや行政当局の対応だけではない。それが制度化され永い歴史とともに存在していたマカオでも、MGMなどは当初ジャンケットは入れない、と豪語していた。しかし、いつの間にかMGMマカオのVIPフロアは、ジャンケットの小部屋だらけになっている。

 大手ジャンケット事業者とカジノ事業者の契約は、原則として(あくまで「原則として」である)「勝ち負け折半」だ。

 カジノで客が勝てば、大手ジャンケット事業者は、その半分をかぶる。客が負ければ、売り上げ(カジノ業界での「売り上げ」とは、バイイン金額から払い戻し金額を引いたもの)を折半する。

 当然にもジャンケットという「仲介業」を入れない方が、カジノ事業者の収益は上がる。

 それゆえ、カジノ事業者は、自社が握るハイローラーのリストで、カジノが直営するプレミアム・フロアが埋まってくれるものなら、ジャンケットなんて入れたくないのである。

 ここ20年でアジア太平洋地域におけるカジノ業界は拡大の一途をたどった。

 それは同時に、限られた人数しかいないカジノのハイローラーたち(ここでの「ハイローラー」の定義は、一回の滞在に5000万円以上持ち込む打ち手のこととする。『森巣博ギャンブル叢書3 日本の「ハイローラー」』参照)が、新規のカジノに拡散した、ということでもあった。

 ここ数年のアジア太平洋地域の大手カジノは、北京政府の「反腐敗政策」の影響をもろに受けて、プレミアム・フロアでは閑古鳥が鳴くところまで現れた。

 そのVIPフロアの空いたスペースを埋めていったのが、本稿でテーマとするジャンケット事業者たちが運営するジャンケット・ルームだった。

 さて、ジャンケットとは、いかなるものか?

 2011年に発覚した「井川意高・大王製紙前会長特別背任事件」でもわかったように、すでに日本の業者がいくつか存在しているのにもかかわらず、ジャンケット業とは日本での認知度がきわめて低いビジネスである。(つづく)

⇒続きはこちら 番外編その5:知られざるジャンケット(2)

第5章:竜太、ふたたび(40)

 いや、そもそもセックスなんかとは比較にならないほどのエキサイティングでスリリングなことが、竜太を待ち受けているはずである。

 空港まで追いかければ、まだ間に合うかもしれないが、竜太はそうしなかった。

 それにみゆきが書いているように、二人で打ったときの竜太の博奕(ばくち)成績は、惨憺たるものである。

 ――神さまがわたしにプレゼントしてくれた大金が、これからどんどんと減っていく気がします。

 というみゆきの言い分は、わからないでもない。

 なぜなら、彼女のこれまでの経験がまったくそうだったのだから。
 おまけに、竜太も一人で打ったときの方が、成績は圧倒的によかった。

 女と博奕を秤(はかり)にかけりゃ、それは当然博奕のほうが重い。

 背なで吠えてる筋彫刺青(すじぼりがまん)

 博奕より集中できることが、この世に存在するのか?

 竜太は自問する。

 あるわけがなかった。

 みゆきが残したメモを読んで受けた最初の衝撃は去った。

 竜太は自分の両頬を平手で叩き、気合いを入れる。

 オーストラリアのカジノで勝ちつづけ、シドニーのボンダイ・ビーチをそっくりそのまま丸ごと買ってやろうじゃないか、と。

 上着のポケットから取り出したビスケットとチップを、クロゼット内の金庫に収め、まずメシを喰おう、と竜太は思った。

 腹が減っては戦(いくさ)ができない。

 たとえ長期戦となろうとも、本当の勝負は、これからなのである。


(第5章 「竜太、ふたたび」了)

(お断り:第五章「竜太、ふたたび」は、ここでいったん「了」とします。次回からの第六章では第二章で登場した「賭博依存の男」有坂啓示の「その後」を書く予定でした。しかし『IR法案』に関する切迫した事態に鑑み、「番外編」となります)
⇒続きはこちら 番外編その5:知られざるジャンケット(1)

第5章:竜太、ふたたび(39)

 冷静さを取り戻せば、急に怖くなった。

「フィニッシュ」

 竜太はそう宣言すると、席前で積まれたチップの山を、ディーラーに向けて押し出した。8万ドルを超すチップの山だ。

「カラー・アップ?」

 ディーラーが問う。

「イエス、イエス、イエス」

 勝ち逃げだけが、博奕(ばくち)の極意。

 これを忘れていたのである。

 ここで打ち止められれば、煉瓦数個分の大勝のチャンスはまた必ず訪れるはずだった。

 打ち手は逃げられる。しかし、カジノは逃げられない。

 5万ドルのビスケット1枚に、6本のバナナ(=5000ドル・チップ)。ゴリラ(=1000ドル・チップ)数頭とモンキー(=500ドル・チップ)数匹がついてきた。タイガー(=100ドル・チップ)数頭は、バンカー勝利でのコミッションとして生じたものか。

 バカラ卓の席を立つ竜太を、突如虚脱感が襲った。

 勝利、それも大勝しているのに、なぜだ?

 ビスケット・チップ類をポケットに収めると、竜太はVIPフロアを去る。それらをケイジで現金化しなかった。

 数時間後には、どうせまたここに戻ってくるのである。

 繰り返すが、打ち手は逃げられる。しかし、カジノは逃げられない。

 一歩踏み出すたびに、竜太の上着のポケットの中で、ビスケットとチップがぶつかり合い、じゃらじゃらと派手な音を立てた。

 おまけに、重い。

 でも、こういう事情の重さなら、いくらでも歓迎だ。

 喜んで20キロでも30キロでも、運んでやる。

 竜太は割り当てられたホテルの部屋に向かう。

 飢え死にしそうに腹が減っていたが、ひとまず収穫を部屋の金庫に入れておきたかった。

 新宿歌舞伎町のドブネズミばくち打ちが言うのもなんだか、カジノなんて悪い奴らばかりが居るところだ、と竜太は思う。

 もしそれが額に汗して稼いだカネであれば、とても一手に100万円・200万円と張れるものでもあるまい。

 ホテルのスイートのドアを開けると、人の気配がなかった。

 みゆきは寝室の方で、まだ眠っているのだろうか。

 リヴィング・ルームのクロゼットの奥に、金庫はあった。

 金庫に向かう途中に、コーヒー・テーブルがある。

 コーヒー・カップのソーサーの下に、メモが残されていた。

 自分のことを起こすな、というみゆきのメッセージか。

 メモに眼を通した竜太は、ちょっとした衝撃を受けた。

 竜太くん、ありがとう。
 でも竜太くんと一緒に居ると、神さまがわたしにプレゼントしてくれた大金が、これからどんどんと減っていく気がします。
 ですからみゆきは、一人で旅立ちます。
 どうせ帰りのフライトまで、あと3日しか残っていないし、シドニーを観光して、わたしは日本に戻ります。
 竜太くんと知り合って、とっても楽しい数日間でした。これ以上ない想い出に残る卒業旅行となりました。きっと死ぬまで忘れないと思います。
 大きな四輪駆動なんて、借りる必要なかったね。ごめんなさい。
 日本に戻って気が向いたら、連絡してね。
                みゆき

 んっ、なんじゃこりゃ。

 俺のカネを持ち逃げしたのか?

 でも考えてみれば、そういうことではない。だいたいこの部屋に、竜太はカネなど置いていない。

 竜太がかっぱらってきたチップをカジノで換金し、その労働への正当な報酬で打った博奕(ばくち)で、みゆきが大勝したに過ぎなかった。

 そのカネを持ち帰ることに、竜太は文句のつけようがない。

 見掛けによらず、賢い女だ、と竜太は思う。

 多少の未練は残るにせよ、どうせ行きがかりでかかわった少女だった。

⇒続きはこちら 第5章:竜太、ふたたび(40)

第5章:竜太、ふたたび(38)

 一般に「ガッタオ」を求める際には、バカラの打ち手は丁寧な絞り方をしない。  縦ラインにカードを五分の一ほど、気合いとともに一気に折り曲げるのである。  そう。  竜太が信じるように、博奕は気合いだった。  念のためにも […]

第5章:竜太、ふたたび(37)

 竜太の指示に従い、ディーラーが開いたバンカー側のカードは、リャンピンの5にモーピンの2がひっついて、持ち点7。  竜太の背筋に、一瞬冷たいものが駆け抜けていった。  刺さったモーピンにテンがついていれば、バンカー側はナ […]

第5章:竜太、ふたたび(36)

「座蒲団(ざぶとん)」獲得のためには、バナナ(=5000ドル・チップ)2本のベットで、100回勝たなければならないのである。  ゴリラ(=1000ドル・チップ)での張り取りじゃ、ゴールまで遠すぎた。  行ってみるか?   […]

第5章:竜太、ふたたび(35)

「じゃ、わたしはこれで」  男が言って、1万ドルと1000ドル・チップの山を、ディーラー側に押し出した。 「もう行かんのですか?」  と竜太。腹の方はすっきりしたが、心が晴れない。 「お腹いっぱいです。欲を掻くと、ロクな […]

第5章:竜太、ふたたび(34)

 なんであそこで、やめちゃったのか。  新参者があろうがなかろうが、あれはプレイヤー側にオール・インのケースだったのである。  プレイヤー側のベットで勝っているので、ハウスにコミッションは引かれない。3手で、男は2万90 […]

第5章:竜太、ふたたび(33)

「入っても構いませんか?」  席前に残ったチップを、全部プレイヤー枠に押し出そうとしていたその瞬間、竜太の背中に、声が掛かった。  それも日本語で。  ひたいからハゲあがった40代の男である。 「ええ、どうぞどうぞ」 「 […]

第5章:竜太、ふたたび(32)

 みゆきが去ったバカラ卓に、竜太は残った。  もう手持ちのカネは、3万AUD(270万円)ちょっとである。  真希からかっぱらってきた7万ドルは、いったいどこに消えたのか?  バカラ卓に張ってあるグリーンの羅紗 (ラシャ […]