「無実なのに処刑」か? 第二の足利事件と言われる飯塚事件
48年ぶりに再審が決定された「袴田事件」。その直後の3月31日に、死刑執行してしまった裁判の再審請求が棄却されている。いわゆる「飯塚事件」だ。この事件について、「無実の人を処刑してしまったのではないか?」との疑問が持たれている。
事件の概要はこうだ。1992年、小学生女児2人が殺され、福岡県甘木市(現朝倉市)の山中に遺棄された。2年後、久間三千年(くまみちとし)元死刑囚が逮捕。久間氏は一貫して容疑を否認していたが、2006年に死刑が確定。約2年後の’08年、死刑が執行された。
◆DNA鑑定写真を“改ざん”!?
検察側は、当時最新だったDNA解析技術を使い「容疑者のものと思われるDNAと久間氏のDNAが一致する」と主張。裁判ではこれが決定的な証拠となった。
「しかし、当時のDNA鑑定は証拠能力を失っています」と同事件弁護団の岩田務弁護士は切って捨てる。
「ほぼ同じ時期に同じ方法で鑑定された『足利事件』では、当時の鑑定技術の信用性が覆され、再審無罪が確定しました。しかも、足利事件を鑑定した複数の技官が、飯塚事件も鑑定しているのです」
それだけではない。なんと、このDNA鑑定は検察に“改ざん”された疑いがあるという。
⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=632907
「DNA鑑定した元のネガフィルムを入手したところ、検察がネガの一部を切り取っていることがわかったのです。さらに通常より暗く現像してわかりにくくし、『久間氏の型と一致する』と強弁しました」
しかも写真から切除された部分には、久間氏とは別人のDNA型が写っているのだという。
「これが真犯人のDNAである可能性があります。ですから、検察はわざとその部分を証拠から外したのでは」
検察は「写真を貼る台紙の大きさに合わせて不要な部分を切り取っただけ」と反論。
「ほかの証拠写真には、これより大きな写真が使われています。ただの言い訳にすぎません」
しかし、裁判所は「DNA以外の証拠で有罪と認めうる根拠が揃っている」として、再審請求を棄却したのだ。
◆疑われる「目撃証言」の信憑性
ところが、「その他の証拠」に対しても疑問が投げかけられている。なかでも重要なのが「T証言」と呼ばれるもの。事件当日、遺体遺棄現場“付近”を通りかかった人が、「不審なワゴン車と男性を見た」という証言だ。
その内容は、不審車両の特徴が「トヨタやニッサンではないワゴン車、車体にはラインが入っていない、後輪がダブルタイヤ、ホイルキャップに黒いライン」など9項目、不審者は「着衣が白のカッター長袖シャツにボタン式の薄茶色チョッキ、上着は毛糸。頭の前の方が禿げて、髪は長めで分けていた」など8項目、計17項目にわたる。この車の詳細な特徴から、久間氏が割り出されたことになっている 。
「車で通りかかったわずかな時間で、これだけの特徴を把握・記憶し、証言するというのは無理があります。しかも『~がある』ではなく、『~がない』という証言は不自然。日本大学・心理学教室の厳島行雄教授が、同じ状況の現場を車で通ってもらった後に記憶を聞く実験を二度にわたって行いました。その結果、のべ75人の被験者の中には、そのように詳細な証言ができた人はいませんでした。警察による証言の誘導が疑われます。しかし、裁判所はこの実験も『心理学の知見を踏まえた十分な検討がない』と一蹴しました」
そこで、記者もその現場である八丁峠第17番カーブに行って再現してみた。
⇒【動画】https://nikkan-spa.jp/632904
現場は急なカーブが続く下り坂で、不審な車と男が見えるのは10秒程度。確かに、T証言ほど多くの細かい特徴を記憶する余裕はない。不審車両の場所から約15m先には急な左カーブが迫る。車を運転していた目撃者は、「時速25~30kmで不審車両を通り過ぎながら振り返り、後輪がダブルタイヤであることを確認した」という。 だが、25kmのスピードで進みながら不審車両を3秒間振り返っただけで、危うく次のカーブに突っ込みそうになった。しかもその3秒間では、車体の影にある車の後輪の特徴に目が行く余裕もない。 しかも、実は目撃証言から久間氏の車が割り出されたのではない。 「1992年3月7日に警察官が久間氏の自宅を訪れ、『その車のボディにラインが入っていないことを確認した』という捜査報告書が出てきたのです。T証言の日付は同年3月9日。この証言をもとに久間氏の車を割り出したというのはウソだということがはっきりしました」 再審請求が却下されてすぐ、弁護団は特別抗告した。無実の人を殺してしまった可能性の高いこの事件、このまま闇に葬らせてはならない。 <取材・文・撮影/足立力也>
現場は急なカーブが続く下り坂で、不審な車と男が見えるのは10秒程度。確かに、T証言ほど多くの細かい特徴を記憶する余裕はない。不審車両の場所から約15m先には急な左カーブが迫る。車を運転していた目撃者は、「時速25~30kmで不審車両を通り過ぎながら振り返り、後輪がダブルタイヤであることを確認した」という。 だが、25kmのスピードで進みながら不審車両を3秒間振り返っただけで、危うく次のカーブに突っ込みそうになった。しかもその3秒間では、車体の影にある車の後輪の特徴に目が行く余裕もない。 しかも、実は目撃証言から久間氏の車が割り出されたのではない。 「1992年3月7日に警察官が久間氏の自宅を訪れ、『その車のボディにラインが入っていないことを確認した』という捜査報告書が出てきたのです。T証言の日付は同年3月9日。この証言をもとに久間氏の車を割り出したというのはウソだということがはっきりしました」 再審請求が却下されてすぐ、弁護団は特別抗告した。無実の人を殺してしまった可能性の高いこの事件、このまま闇に葬らせてはならない。 <取材・文・撮影/足立力也>
ハッシュタグ