船橋オート廃止がギャンブル業界に突きつけた現実
噂だけでなかなか進むことのなかったカジノが、いよいよ実現に向けて動き始めた。経済効果から始まり、日本版カジノのサービス内容など、関係者だけでなく一般の人も含めて皮算用が始まっている。
そんなカジノに注目が集まる今日この頃なのだが、8月12日、ギャンブル関係者に少なからぬ衝撃が走った。それはオートレース発祥の地である、船橋オートの廃止が決まったのである。日本経済新聞によると、2013年度の入場者数は15万4千人とピーク時から比べ86%減。06年度からは赤字が出た場合は運営する企業が負担する形で民間に運営を委託。県には13年度末時点でオートレース関連で6億円超の繰越金があり、船橋市は同年度末時点で1億4千万円の累積赤字額があったという。
この船橋オートの廃止は、選手会やファンには寝耳に水。すぐさま廃止撤回を求める運動が起きたのだが、もはや後の祭り。船橋オートは廃止に向けての一歩を踏み出してしまった。さる在京スポーツ紙ギャンブル担当記者は言う。
「発祥の地である船橋を廃止するとは思いませんでしたが2000年以降、公営競技は競輪や地方競馬を中心に廃止する場が増えており、その流れなのかとも思います。オートレースは伊勢崎、川口、船橋、浜松、山陽、飯塚と全国で6場。開催場の少なさだけではなく、場外売り場もほとんどありません。他の公営競技が場外売り場を作りファン獲得に躍起になっていたのにもかかわらず、オートレースが初めて場外売り場を作ったのは1999年。それもなんのゆかりもない新潟です。この場外売り場はわずか4年、2003年に廃止されました。今でも何カ所かはオートレース専用の場外売り場があるのですが、とある場外売り場は一日の来場者数が数十人、100人に満たない日もザラにあると聞きます。レジャーが多様化する中で、オートレースがファンの獲得について後手に回ったのは否めませんね」
ここ数年、とくに2000年以降に廃止となったギャンブル場は数多く存在する。特に競輪と地方競馬の廃止は顕著で、競輪は2000年に入ってから甲子園、西宮、花月園、最近では一宮と7場が廃止。地方競馬は2000年代前半に新潟、足利など7場が廃止、ここ数年でも福山や荒尾といった地方の競馬場が廃止へ追いやられた。その理由はいわずもがな赤字だ。だが、廃止されたら赤字がなくなってめでたしめでたしとならないのは、世の常。雇用されていた職員の再雇用など頭の痛い問題が横たわるのである。記者は続ける。
「SMAPの森が選手になって川口オートが盛り上がったのも今や昔です。当時、川口は森目当てで来た女性ファンが大勢いて、その女性ファンが他の選手のファンにもなり、森の加入効果は抜群でした。でも、それっきりだったんですよね。鈴鹿の8耐に選手が出たり、ロードレースの青木治親が加入したり、女子レーサーをデビューさせたりはしたけど、なかなか集客やファン獲得に繋がらなかった。最近になってようやく競輪の場外売り場でもオートレースの車券が買えるようになったんですが、オートレースそのもののファンを増やさないことには意味がないと。それに加えて今回の騒動でも問題となったテラ銭です。テラ銭を上げれば配当は減ります。テラ銭引き上げはパンドラの箱です。箱は開けたら閉じることが出来ないんですよ。売り上げ維持のためにやるべきことはたくさんあったんではないでしょうか」
近年では、ネット投票の充実や民間に業務委託をしたり職員のリストラなどが進み生まれ変わりを測ろうとしているのだが、いかんせん、お金を落とす客を本場に呼ぶ集客力の低下はなんともしがたいものがある。ある地方競馬の関係者は言う。
「今でこそ危機感はありますが、開催すればお客さんは来るものという考えで止まっていたと言われればそれまででしょうね。集客イベントだって、子供にアメ配ったり場内で使える食券配ったりするくらいだったんですよ。ハルウララみたいな、インパクトがあってお客さんを呼べる馬の出現に期待したこともありますが、負け続けることって勝ち続けることと同じくらい難しいですからね(苦笑)。それこそ馬券を当てる以上に難しいこと。オイシイ時代を過ごしてあぐらを掻いてたバツじゃないですかね……」
船橋オートの廃止、その要因は一つではない。だが、ファンの獲得やファンサービス、そしてファン心理を軽く見たツケというのは大きいのではないだろうか。週刊SPA!編集でオートレースをたまに嗜むという編集Hは言う。
「ただでさえテラ銭問題って公営ギャンブルファンにとって頭の痛いことなのに、下げるならともかく上げるなんて愚の骨頂。優勝戦限定でテラ銭は10%にするなどの“博奕”をオートレースのみならず、公営ギャンブル界はやるべきです。まぁ、無理だと思いますが、このくらいのギャンブルをやんなきゃ公営競技はこの先、厳しいでしょうね。それとファンサービスですが、最大のファンサービスってファンがカネすっても納得できる環境作りだと思いますよ。メシが旨いとか、場内がキレイでネエちゃん連れて行きたくなるとか、そういうのって大切なんですよ。某ボートレース場のナイターレースに行ったんですが場内はめちゃくちゃキレイでカップルシートっていう2人用の個室とかあって、若いコたちがキャッキャッ言いながら楽しんでるの見てこっちも楽しくなっちゃった。極端な話、別に負けてもいいんですよ、公営競技なんて遊びなんですから。その負けてもいいってことをどう思わせるか、錯覚させるかが、胴元に求められることなんじゃないでしょうか」
若い頃は選手を目指したこともあるという埼玉県在住のオートレースファンの男性(40代)は、今回の船橋オート廃止の報に複雑な気持ちだ。
「そりゃなくなるのは寂しいし、廃止反対の署名もしたよ。でもさ、潰れても当たり前だと思ったよ。だって行く気が起きないもん。わざわざ行って得する気分になるのは、帰りにIKEA寄ることくらいだよ(笑)。場内は良く言えばレトロ、悪く言えば古くさいしさ。わざわざお金払って船橋まで行く価値ってあんの?って。おまけにオートはテラ銭だって30%(他の公営競技は25%)も取ってんだよ。それで廃止の理由の一つにテラ銭を上げたのが原因とかJKA(競輪とオートレースの振興会)が言っちゃったりして、自分で自分の首締めてんじゃんって」
さらに他のファンも複雑な胸中を吐露する。
「廃止が決まってから選手会が署名したり、なんでもっと早くやんなかったんだって思う。廃止が決まった、じゃあ反対の署名を集めようっておかしいですよ。この危機的状況はもっと早くからわかってたんだから、選手会も危機感がなさ過ぎなんですよ。賞金削ったりいろいろやってるけど、黒字化の試算とか見たときに絶望的な気持ちになりましたね。年間1000万円程度の黒字で8億円弱の船橋オート改装費をどうやって返済するんだと。生まれて初めてオートレースをやった船橋がなくなるのはツラいけど、僕はあえて署名はしませんでした」(千葉県在住・30代男性)
⇒【後編】に続く「在阪のスポーツ紙ギャンブル担当記者は今回の騒動について危機感」 https://nikkan-spa.jp/725679
<取材・文/SPA!ギャンブル特捜班>
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