「バブル感なき“奇妙な”バブル」の正体とは?【アベノミクスが効かないワケ】
――発想は理解できますが、どうしたら統合できるのでしょうか。
木下:アダム・スミスとケインズは見ている経済が違ったのです。そのために主張が真っ向から対立することになってしまった。ケインズが観察したのは主に1929年の世界恐慌後の世界です。ダウ平均が異常に値上がりしバブルとなり、それが破裂したのが世界恐慌でした。つまり需要が極端に減少し、デフレギャップが発生した経済を観察していたのです。デフレギャップとは供給が需要を上回っている状態です。これを私は「反の経済」と呼んでいます。一方で、アダム・スミスの理論は供給よりも需要が多い「正の経済」で生まれました。
――「正の経済」ではアダム・スミスが言うように「神の見えざる手」に委ねればいいし、「反の経済」では政府が積極的に介入してやる必要がある、と。
木下:そのとおりです。正と反の概念を導入することにより「ひとつの経済に対して2つの視点」があった経済学を、「2つの経済に対してひとつの視点」へと統合できるのです。
――それでは今の日本はどのような状況にあるのでしょうか。
木下:1989年にバブルが崩壊したことによりデフレギャップが発生し、日本は「反の経済」に陥りました。それ以降、現在に至るまで日本はデフレギャップを解消できていません。
――しかし、政府・日銀は日本経済再生に躍起となっています。異次元金融緩和にマイナス金利、さらには国民にお金をばらまく「ヘリコプターマネー」までが議論されています。
木下:異次元金融緩和にしろ、マイナス金利にしろ、市場に大量のマネーを供給し企業の投資を活発化させて需要を拡大させようという政策です。ところが、肝心の企業に投資意欲がない。消費者の消費意欲も減退している。そんな状況で大量のマネーを供給したところで、設備投資や消費には回らず、銀行にはお金が滞留し、家庭ではタンス預金が積み上がっていくだけです。
――マイナス金利政策の発表後には家庭用の金庫が売れる現象もありました。
木下:たとえ国民にお金をバラまいたところでタンス預金が積み上がるか銀行に預金するか、あるいはお金に余裕のある人なら「銀行に預けても金利がつかないから株や国債でも買っておくか」と考えるだけです。その結果、株バブル、国債バブルが生まれているわけです。
――政府・日銀の悪手が生み出したのが現在の株価、バブルの姿である、と。
木下:これを私は「反のバブル」と呼んでいます。これまでのバブルは極端な「インフレギャップ」が原因でした。「供給<需要」のインフレギャップが拡大し「供給<<<需要」となって生まれたバブルです。しかし今、人類史上初めて「反の経済」のもとでバブルが生まれています。つまり、「供給>需要」でデフレギャップがあるなかで、マネーが大量に増え、「供給>>>需要」となった「反のバブル」です。
「反のバブル」とはいったい何か? バブルである以上いつかは弾けるのか……? 「バブル感のない“奇妙な”バブルの行方について、次回中編のインタビューでより詳しく語ってもらった。<取材・文/高城泰 撮影/岡戸雅樹>
【木下栄蔵(きのした えいぞう)】
1949年、京都府生まれ。1975年、京都大学大学院工学研究科修了、現在、名城大学都市情報学部教授、工学博士。この間、交通計画、都市計画、意思決定論、サービスサイエンス、マクロ経済学などに関する研究に従事。特に意思決定論において、支配型AHP(Dominant AHP)、一斉法(CCM)を提唱、さらにマクロ経済学における新しい理論(Paradigm)を提唱している。1996年日本オペレーションズリサーチ学会事例研究奨励賞受賞、2001年第6回AHP国際シンポジウムでBest Paper Award受賞、2005年第8 回AHP国際シンポジウムにおいてKeynote SpeechAward受賞、2008年日本オペレーションズリサーチ学会第33回普及賞受賞。2004年4月より2007年3月まで文部科学省科学技術政策研究所客員研究官を兼任。2005年4月より2009年3月まで、および2013年4月より名城大学大学院都市情報学研究科研究科長並びに名城大学都市情報学部学部長を兼任。8月12日に新刊『資本主義の限界』(扶桑社)を発売1975年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。編集プロダクション「ミドルマン」所属。株、FX、仮想通貨など投資関係の記事を幅広く執筆。著書に仮想通貨の入門書『ヤバイお金』(扶桑社)、『FXらくらくトレード新入門』(KADOKAWA)など
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