更新日:2022年08月31日 00:36
恋愛・結婚

物価の安いタイで総額1000万円以上を散財した買春おじさんの顛末

廃都-04 とはいえ、当時は会社勤めでネットもあまり普及していない時代。日本とタイを行き来する遠距離恋愛は、安月給の自分にとっては厳しい現実もある。通帳の残高は減っていく一方だった。そのときに使っていた金額の明細はこの通り。 航空券往復:6万円 ホテル代:4万円 電話代:10万円 おねだりプレゼント代:2万円 食事やデート代:5万円  毎月の運用コストは決して安くない。だが、真実の愛を貫くためには我慢が必要だ。しかし、付き合ってから3か月が経った頃、彼女からこう切り出してきた。 「お父さんが病気で倒れた……あなたしか頼れる人がいないの」  なんてこった……俺が助けなきゃ! オレが彼女を助けないと! そのときに、愛のギアが入ったのを自分でも強く感じていたのだが、具体的にはどうすればいいのか。 「とりあえず、1万バーツ(約3万円)送ってほしい」  気付くと私は、蒲田駅前の銀行まで無我夢中で走っていた。そして送金。これでしばらくは大丈夫だろう。それから、1か月後だった。 「あなたのために夜の仕事を辞めようと思っている。だけど、当面の生活費がないから次の仕事が決まるまで送金してほしいの」  しかし、私の月給は手取りで20万円程度。明らかに赤字だった。とはいえ、私のために仕事を辞めてまで真っ当な道を進もうとしているプラちゃん。ココで力を貸さないでどうする!  じつは、彼女は現役の大学生でもあった。「G」で働いていたのは、その学費を払うためでもあると聞いていた。普通の大学生として、普通の学生生活を送ってほしい。その後、私は送金を繰り返した。当然、あまりにも出費がデカくなり過ぎて貯金も底を尽き始めていた。それでも会いたい気持ちが大きく、私にとって命の次に大事だったロレックスの時計を売っぱらった。  そこまでして訪れたタイ。彼女とデートしていると、こう言ってきた。 「久しぶりに昔働いてたお店に顔を出したいの。友達にも会いたいし、あなたも一緒にいれば、安心でしょ」  そして、「G」に向かうと彼女が「お店のママに挨拶してくる」と笑顔でバックヤードへ消えていった。それから数分後、笑顔のまま、私が待っているテーブルに戻ってきた。だが、白い紙きれを1通、テーブルの上にポンと置いて、またすぐ裏へと戻っていった。  なんだろうと思い……その紙を見てみると。な、な、なんとっ!!

送金地獄の末に見た紙きれの内容とは……!?

 驚愕の事実が発覚した。テーブルの上にちょこんと置かれた紙きれは、店の給料明細だったのだ。えっ、だって辞めたんじゃないの?  よく見ると、彼女は先月も今月も出勤しており、全ての日をペイバー(連れ出し)されていた……。 「いまでも売れっ子じゃん!(笑)」  いやいや、違う。そうではない。騙されてるやん、オレ! そこで、はじめて騙されていることに気付いたのだった。  タイにはこうした落とし穴がすごく多い。ネットの掲示板などでも被害報告が見受けられ、知り合いにも相談してみたが、結局いつも自分が出す回答は「まさか自分が、そんなワケない」だった。そう、小学生の息子がとんでもない悪さをしたときに親が言う決まり文句の「まさか、ウチの子が」方式である。本気で彼女のことを好きになっていたのでショックだった。その日を境に送金を止めた。  すると、彼女から連絡が入った。 「あなた、忘れているわよ……私のサラリーを」  サラリーマンとはよく聞くが、当時の私はその言葉の意味を知らなかった。辞書で調べてみると、サラリーとは「お給料」のことだった。  そうか、これは真実の愛ではなく、お給料を育んでいたのか。それでも彼女を信じたい気持ちもある。そこで、私は最後の決闘を申し込んだのだ。 「お金と愛、真実はどちらなの?」  すでに貯金も尽き、ロレックスの時計まで売って、真実の愛にかけてきた私。 「手元には最後のお金がある。これで私が『会いに行く』か『カネを送金する』のか、どちらか決めてくれないか?」  これで、私が会いに行くことを選んでくれたなら真実の愛だ。それを確かめたかったのだ。愛があるなら、送金なんて要求してこないはず。しかし、彼女は迷うことなく答えた。 「私は数か月、あなたに会えなくても大丈夫。だからお金を送ってちょうだい」  逆にナイスッ! 私のなかで、恋のギアがローに戻っていく音が聞こえた。それからは彼女とメールを交換したり、会いに行くことはなかった。“カネの切れ目が縁の切れ目”とはよく言うが、まさにその通りだった。 廃都-05 その後、借金地獄から抜け出すまでに時間が掛かったことは言うまでもない。現在タイに住むようになった詳しい経緯などはまたの機会とさせていただく。  余談だが、彼女が大学生というのもウソで、学生証も偽造だったようだ。あのとき、「ティーラック(恋人)」と言いながら流した涙もウソだったとは今でも信じたくないが……。 <取材・文/萬谷太郎、撮影/クレイジーモンキー>
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