“ふたりの相撲レスラー”ヨコヅナと小錦の再会――フミ斎藤のプロレス読本#062【WWEマニア・ツアー編エピソード2】
ヨコヅナが小錦と知り合ったのはもう何年もまえのことで、コキーナだったヨコヅナが「アメリカに帰ったらスモウ・レスラーのギミックに変身しようかと思ってる」と恐る恐る小錦に相談すると、小錦は「それはグッド・アイディアだ!」とおもしろがってくれ、コキーナが滞在していた京王プラザホテルにわざわざホンモノのまわし、“小錦”の浴衣、手ぬぐいなどを届けてくれたのだという。
“にせスモウ・レスラー”ヨコヅナと正真正銘の大相撲・元大関の小錦は、ふたりともサモア系アメリカン。日本には共通の友人もたくさんいる。小錦は、ヨコヅナのメインランドでの成功を喜んでいるらしい。
「もうすぐ、この店の下に来るよ」
ヨコヅナは、小錦との再会を楽しみにしていた。
「ボク、ビガロと待ち合わせをしているから」
ショーンは、ヨコヅナの誘いを、ほんとうはいっしょに行きたいんだけどね、という感じでていねいに断った。
ショーンが大好物のチキン・ファヒータを食べ終えて店を出ると、20メートルほど先にある“ハードロック・カフェ”のオフィシャル・ショップのまわりに人だかりができていた。
仕事帰りのサラリーマンと思われる男性グループ、若い女性グループ、学生っぽいグループ、カメラを首からぶら下げた外国人観光客らしきグループもいる。群集が小錦とヨコヅナのツーショットをとり囲んでいた。
おのぼりさん気分のタタンカとドインクがハードロックのTシャツを買い込んでいるあいだ、ショップの外で立ち話をしていたふたりのスモウ・レスラーのまわりにいつのまにかたくさんの人びとが集まってきてしまったのだった。
ショーンは、その様子をながめながら人だかりの後ろをすり抜けて“ミストラル”へ向かった。
ほんの1時間まえまではガラガラだったバーのなかは、もうぎゅうぎゅうづめになっていた。入り口のところからなかをのぞいてみたが、ビガロの姿は見当たらない。どこか別のお店にでも行ってしまったのだろうか。
ビガロは、体は大きいし、頭にはタトゥーなんか彫っているけれど、人一倍寂しがり屋で、独りでじっとしていることなんてできない。ショーンがなかなか戻ってこないので、急につまらなくなって帰ってしまったのだろう。
ショーンは、5月の風にあたりながら、さっきタクシーで来た道をのんびりと歩いてホテルまで帰ることにした。(つづく)
※文中敬称略
※この連載は月~金で毎日更新されます
文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

斎藤文彦
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
1
2
この連載の前回記事
【関連キーワードから記事を探す】
ビンス・マクマホン 世界征服と開拓のパラドックス――フミ斎藤のプロレス講座別冊レジェンド100<第100話(最終話)>
ランディ・オートン 現在進行形のレジェンド――フミ斎藤のプロレス講座別冊レジェンド100<第99話>
ジェフ・ジャレット “サザン・スタイル”最後の継承者――フミ斎藤のプロレス講座別冊レジェンド100<第96話>
クリス・ジェリコ ロックンロール・レスラー――フミ斎藤のプロレス講座別冊レジェンド100<第95話>
カート・アングル あっというまに“伝説の男”――フミ斎藤のプロレス講座別冊レジェンド100<第94話>
ケビン・ナッシュ&スコット・ホール&ショーン・ウォルトマン まぼろしのユニット“ウルフパック”――フミ斎藤のプロレス講座別冊レジェンド100<第84話>
これがそうだとしたらスターなんて退屈じゃん――フミ斎藤のプロレス読本#105【ショーン・ウォルトマン編エピソード5】
1972年生まれのショーンが定義するところの“リック・フレアー”――フミ斎藤のプロレス読本#103【ショーン・ウォルトマン編エピソード3】
ウルフパックが伝説をつくります――フミ斎藤のプロレス読本#102【ショーン・ウォルトマン編エピソード2】
ショーン・ウォルトマンはロックンロールの魂を持っている――フミ斎藤のプロレス読本#101【ショーン・ウォルトマン編エピソード1】
この記者は、他にもこんな記事を書いています