マンデー・ナイトロよりも生グレープフルーツ・ハイ――フミ斎藤のプロレス読本#099【Tokyoガイジン編エピソード09】
けっきょく、この半年間くらいでリングに立たせてもらったのはたったの3回だけだった。フロリダ州オーランドのMGMスタジオで“WCWワールドワイド”と“WCWプロ”のTVマッチを何試合か収録したけれど、それだってちゃんとオンエアされたかどうかわからない。
番組プロデューサーのケビン・サリバンとテリー・テイラーに「もっと試合に出してください」といいにいったら「ギャラをもらっているんだから文句はいうな」とたしなめられた。
現場ではアンクル・ホーガンと会話を交わすチャンスはほとんどない。もちろん、甥っ子のほうでも叔父さんになにかを頼むつもりはない。
ホーレスはWCWの背広組のエグゼクティブに「クビにしてください」と伝え、タンパ発―デトロイト経由―成田行きののノースウエスト17便に乗った。
久しぶりに帰ってきた池袋は、あいかわらず曜日の感覚がない空間だった。FMWのリングは乾いた体にバンプの感触を与えてくれたし、眠らない街はチューハイの味を思い出させてくれた。
ホーレスがよく知っているネオンカラーのストリートにはコンビニと居酒屋がひしめき合っていて、そのへんを歩いていると、やたらとちいさなティッシュペーパーをプレゼントされる。
「もっと自然にやらせてくれたらIf they let me be myself」とつぶやくと、ホーレスは“うん”という感じでうなずいて生グレープフルーツ・ハイを口に運んだ。
サトーくんもMちゃんも、黒ぶちメガネのホーレスにとってはビーイング・マイセルフ=自分が自分らしくなれるトーキョーの友だち。やっぱり、試合をやらなければプロレスラーはプロレスラーでなくなってしまう。
池袋のストリートには夜ふかしモードがよく似合う。(つづく)
※文中敬称略
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文/斎藤文彦
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