大仁田厚は「抹茶のアイス、食います?」といってニラみ微笑んだ――フミ斎藤のプロレス読本#118【ECW編エピソード10】
とんでもないデスマッチを次つぎに発明したオーニタONITAは、アメリカのレスリング・ビジネスのインサイダーのあいだでは、ジャパンで大きなムーブメントをクリエイトした天才プロデューサーということになっている。
リングのまわりに時限爆弾を仕掛けて――自分がそこに飛び込んで――それをじっさいにドカンと爆発させたプロモーターはまだアメリカにはいなかった。
ハルク・ホーガンとかランディ・サベージとか、なんかそんなよそいきの固有名詞が聞こえてくる。サベージが着ている黒のヒラヒラが気に入っていて、ブレット・ハートの黒とピンクもいいかななんて思ったりすることがあるらしい。
大仁田は“いまどきの音”を必死になって聴こうとしている40代のアーティストになった。
遠くのほうからピアノの音だけが響いてくるガランとした喫茶店で、大仁田は身を乗り出すようにして「それがオレの計画なんです」とうなり声をあげてこちらをにらんだ。
あんなことをやりたい、こんなこともやりたいという具体的なプランがいくつかある。ランディ・サベージ、ランディ・サベージとくり返しているうちに、それが誤って“ダッチ・サベージ”に変換されてしまうことがある。
大仁田の体には、大仁田が少年時代に観たプロレスが、記憶のなかの映像として染みついている。
だれも大仁田からプロレスを奪うことはできない。みんなが「やめろやめろ」といっても、大仁田は「ヤダよ」というだろう。
プロレスのリングは大仁田の家だから、オレがオレんちでなにをしようとオレの勝手だ、バカヤロー、なのである。
「抹茶のアイス、食いません?」
大仁田は、にらむような、理解を求めるような目で、すばやくほほ笑んだ。
※文中敬称略
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文/斎藤文彦
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