更新日:2022年12月10日 19:01
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「大学はお金と時間のムダ」ホリエモン発言と同タイトルの本を、あの名門大学が出したワケ

 ここで、冒頭の議論に戻りたい。堀江氏もキャプラン氏も、大学が実務に役立つ教育を一切していないとする点では一致している。  しかし、キャプラン氏はその先を見据えているのだ。たとえ実務的なスキルや知識がなかったとしても、ハイステータスな卒業証書さえあれば個人レベルではそこそこいい思いが出来てしまう。そのことこそが社会にとって致命的な欠陥となり得るのだと指摘しているからだ。 教室

安倍首相のいう「教育の無償化・拡充」って必要?

 個人の生活レベルを高めるための資格証明書をめぐって、激しい競争が繰り広げられる。すると、本来は社会に還元されるべき能力が、よりよい暮らしを求めるという目的のためだけに自己完結させられる。そうしたせせこましい風潮に拍車をかけているのが、他ならぬ教育だと論じているのだ。  近年、自民党は教育の無償化・拡充を政権公約に掲げ、さらなる人材育成を図ろうとしている。人的資源こそ国家の根幹だと考えているのだろう。  けれども、キャプラン氏はこう言う。 <全ての人がより良い教育が受けられるよう補助金を給付することは、コンサートの客に対して“立ち上がればもっとよく見えるよ”と促すようなものだ>(Introduction p.6)  そう、結局誰もステージが見えなくなってしまうというわけだ。  闇雲に教育の拡充を目指す先に、一体どのような国家像があり得るのだろうか。教育という言葉の持つ道徳的に心地よい響きが、思考停止を招いていないだろうか。  そうした前提を問い直す意味でも、本書の持つ意義は大きい。<TEXT/石黒隆之>
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4
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