お金

盗まれた事実を今度こそ打ち明けよう――「お金0.0」ビットコイン盗まレーター日記〈第9回〉

……… …… … い…え…た… やっと言えた。ゆっくりと顔を上げて親友を見る。 黙ってる。 僕「あ、あの…」 店員「お待たせしました~ビール2つです」 僕「…」 親友「…」 僕「ありがとうございます」 机に置かれたジョッキの中で泡が上へと浮いていく。 黄金色の円筒の上を目指しては、積み重なって消えていく泡。合わせる顔もない僕は再びうつむいて、泡が上がる場所を見つめている。次々と泡は生まれ、上に向かって消えていく。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。 お金0.0 今の僕は、大切なあなたの目を見ることもできません。 親友「そうか」 僕「…はい」 親友「…」 僕「…」 親友「お母さんとかには、言ったの?」 僕「はい…言いました」 親友「そうか」 僕「…」 親友「なんともないならよかった」 僕「え」 親友「盗まれたなら仕方ない。それより、他の人たちとの関係が心配だ」 僕「…」 親友「ほら、今日は、好きなだけ食って、飲め」 僕「………はい」 たくさん食べていっぱい飲んだ。沈黙が怖くてたくさん飲んだ。どんなことばを伝えたところで何のなぐさめにもならないし、この人からお金を借りて盗まれたのは僕なんだ。その事実の前ではどんな言葉も安っぽくて、気の利いたことを言おうとすればするほどつらくなる。 親友「あのね出野くん」 僕「は、はい」 親友「俺な、嬉しいんだよ」 僕「え?」 親友「出野くんが、色んなところに連れて行ってくれたり新しいこと教えてくれたりしてうれしいんだ」 僕「…」 親友「だからさ、きにすんな。若いうちは失敗することも多いだろ。でもな、それは若さの特権だ。もっと失敗してこい。脇が甘くて失敗するのはよくないけどな!はは!」 僕「ほんとに…すいません。」 親友「じゃ、お会計」 店「ハ~イ」 ——– —— —- その頃… A 「スギナミさん。僕が教授をしている某オンラインサロンで、ビットコイン盗まれたっていうコがいて、どうやら帰ってきそうにないのでもし連載から書籍化の可能性がありそうならば一度会ってやってもらえますか?」 スギナミ 「了解です」 A 「アリガト。じゃあ彼が書きなぐったいままでのエピソードとか時系列でもらってるので、のちほどチャットログ転送しますね。Bさんと3人で進めてるので、ゆくゆくは漫画化もできればとおもってます」 スギナミ 「了解しました。おまちしてます」 ——– —- — スギナミ 「お、おもしろいですねぇ…編集長も交えてぜひ一度打ち合わせを」 A 「了解。本人にもそうつたえます」 次号へつづく
(いでの・たつや) 1994年、兵庫県生まれ。元かけだし俳優、高校卒業と同時に上京。文学座附属演劇研究所卒業後、エキストラ出演やアルバイト勤務を華麗にこなし、たまたま仮想通貨で得た大金を秒速で盗まれる。Twitterアカウント(@tatsuya_ideno
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