更新日:2018年07月27日 13:53
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「北朝鮮の非核化はポーズ、トランプはダマされたフリ」というシナリオ

非核化を約束した後も、核実験を続けている金正恩

高:金正恩は非核化の見返りとして体制保証を求めています。体制保証とは合意文書に『Safety guarantee』と書かれているように直訳すれば安全保障のことです。つまり、『アメリカは北朝鮮を軍事攻撃しない』という約束と捉えて問題ないでしょう。北朝鮮は核を保持することで、米軍による北朝鮮本土の全面軍事攻撃を防いできたため、簡単に核を手放すわけがないと思いますが、黒田さんは北朝鮮の非核化の実現可能性についてどうお考えでしょうか。 黒田:一番コアの問題ですが、私も高さんがおっしゃるように核放棄すれば、誰も振り向いてくれない国になりますので、北朝鮮が最終的に非核化する可能性は限りなく低いと思います。核を放棄するとなると、そもそも核爆弾を何発所持しているのか、核開発施設がいくつあって、どこにあるのかなど、北朝鮮側に申告させた上で、アメリカと国際機関による査察も経なければなりませんが、この条件を北朝鮮が了承することは難しいでしょう。
黒田勝弘氏

産経新聞ソウル駐在特別記者兼客員論説委員の黒田勝弘氏

高:さらに北朝鮮は、核攻撃を受けても反撃できる潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)北極星の発射実験をすでに5回以上行なっていますし、それを搭載できる2800トン級の大型潜水艦が今年中に完成する予定です。それができれば、アメリカの核攻撃を受けても、海面下で生存する潜水艦に搭載された核兵器によって報復攻撃が可能なので、そもそもアメリカは北朝鮮に対して核を使えないでしょう。そのときはアメリカも北朝鮮の核保有を認めざるを得なくなります。米朝首脳会談後も、実際に核実験施設は稼働していますし、金正恩は完成まで時間を稼ぐために非核化を口にしているだけだと、私は考えます。

わざと騙された振りをして、軍事攻撃を画策するトランプ

黒田:トランプからすると金正恩に非核化の意思が感じられないと判断した瞬間、騙されたと気づくでしょう。そうなった場合、米朝首脳会談開催前まで、現実的だった軍事攻撃オプションが復活するだろうと予測する専門家もいます。高さんはどう考えますか? 高:いつまで経っても金正恩に非核化する意思が見えない場合、アメリカ国内の強硬的な意見が増えていくことが前提ですが、軍事オプションの復活は当然あるでしょう。さらにトランプは最初から北朝鮮の非核化を期待していない上で、米朝首脳会談で合意文書を交わした可能性も考えられます。つまり、金正恩にわざと騙された振りをして、アメリカ国内の世論を喚起させ、軍事攻撃に踏み切る口実を自ら作り出したということです。 黒田:トランプは計算の上で騙されようとしているわけですか。それは面白い解釈ですね。要するに、金正恩は非核化する意思が本当にあるのかをアメリカ側がどう見極めるかによって状況が一変する可能性も十分あり得るということですが、金正恩が非核化のポーズを取り続ける限り、軍事オプションへの回帰は難しいと思いますね。それと非核化といっても、完璧に核がゼロの状態だとはっきりわかるまで10年以上かかるだろうと言う専門家もいます。仮にトランプが再選したとしても任期は最長でも6年なので、金正恩の立場になって考えてみると、次の大統領になって方針が変わることもあり得るわけだし、やはり核を維持しておきたいはずですよね。 高:7月27日は朝鮮戦争の休戦から65周年、9月9日は建国70周年なので、それまでに北朝鮮としては良い成果が欲しい。その結果を受けて、9月から10月にかけて行われる国連総会で国際社会デビューを果たし、2回目の米朝首脳会談開催を金正恩は狙っていると思います。そのため、段階的に非核化を進める素振りを見せつつ、徐々に経済制裁解除などの見返りを求めてくるでしょう。いかにしてアメリカが金正恩の非核化する意思の有無を判断するかが、これからの米朝問題を左右する重要な鍵です。 【プロフィール】 高永喆(コウ・ヨンチョル)/拓殖大学主任研究員、韓国統一振興院専任教授、元韓国国防省専門委員・北朝鮮分析官歴任。 韓国全羅南道生まれ。1975年韓国朝鮮大学卒業(奨学生)、同年海軍将校任官、韓国艦隊・駆逐艦作戦官、特海高速艇隊長、海軍大学正規(18期)卒業。海軍士官学校本部隊長、国立海洋大学ROTC教官兼副団長、国防省日本担当官(防衛交流)在職。1993年、金詠三政権により、全斗煥、盧泰愚元大統領、軍政治団体ハナ会らとともに拘束(情報漏洩罪)。その後、金大中大統領の特別赦免・復権を受ける。1999年12月来日。テレビ、新聞、週刊誌、webメディア、SNSなどで北朝鮮問題について精力的に提言し、韓日友好に寄与。著書に『国家情報戦略』(佐藤優共著、講談社)、『韓国左派の陰謀と北朝鮮の擾乱』(佐藤優対談、KKベストセラーズ)、近著に『金正恩が脱北する日』(扶桑社)がある。 黒田勝弘(くろだ・かつひろ)/昭和16(1941)年、大阪市生まれ。京都大学経済学部卒業後、共同通信社入社。社会部記者などを経て、53年から一年間韓国・延世大学留学。55年ソウル支局長。平成元(1989)年から23年10月まで産経新聞社ソウル支局長。同年11月1日から現在まで産経新聞ソウル駐在特別記者兼客員論説委員。主な著書に『韓国人の歴史観』(文春新書)、『日韓新考』(扶桑社文庫)、『韓国人の研究』(角川新書)、『隣国への足跡 ソウル在住35年 日本人記者が追った日韓歴史事件簿』(角川書店)などがある。 取材・文/福田晃広(清談社)
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