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自衛隊の歌姫が、椎名林檎「NIPPON」を歌った動画が不思議すぎて話題

 海上自衛隊につづいて、陸上自衛隊からも“歌姫”がメジャーデビューを果たした。

 去る6月27日に、隊員でソプラノ歌手の鶫真衣さん(30)がアルバム『いのちの音』をリリース。8月のライブで、収録曲から「NIPPON」(椎名林檎)を披露していたのだが、これがなんとも不思議なパフォーマンスで……。

 結論から言うと、ことごとく北朝鮮テイストな「NIPPON」になっているのである。


満ち溢れる「正しさ」、不思議なテイスト


 「NIPPON」は“Jポップ職人”を自認する椎名林檎らしく、言葉とメロディの絡み方がとても複雑だ。至るところに語のアクセントから外れた“やつし”があり、椎名林檎も言葉の輪郭をささくれ立たせる歌い方をしている。これが日本語なのにロックっぽく聞かせる隠し味なのだろう。

 だが、鶫隊員はこの“やつし”をすべて取っ払っているのだ。口を大きく開け、語句の区切りは明瞭。フレーズの終わりは伸びやかで、どこを切っても道徳的に正しく響く。澄んだソプラノで、<そ~ぅかぁ~いな~ きぶぅ~ん>と歌うトーンには、一点の曇りもない。

 そして、クライマックスは<また不意に接近している淡い死の匂い>の箇所だ。鶫隊員はいっそう力を込めて歌い上げている。実力組織が朗らかに「死の匂い」を云々したらまずいだろとツッコんではいけない。

 歌詞がどのような内容であろうとも常に背筋を伸ばし、笑顔で、真正面を見据える。無表情なコーラス隊は一心不乱に手振りでエールを送り、演奏のリズムは食い気味に直進し続ける。

いのちの音 ここには議論の余地のない正しさが満ち溢れている。それは、あの北朝鮮・モランボン楽団が醸(かも)し出すものに近い。皮肉ではなく、ベクトルの向きが同じなのだ。

 というわけで、現段階では、鶫隊員と中部方面音楽隊による「NIPPON」を興味深く聞いた、というのが率直な感想だ。

 ひどい歌と演奏でもないかわりに、音楽の楽しさが伝わってくるわけでもない。最大公約数的に好ましく正しい振る舞いを体現する手段として、たまたま音楽が用いられている。そのようなアプローチに、論点がありそうな気がする。

 つまり、アレサ・フランクリンに捧げたイギリス陸軍の演奏と聴き比べれば、音楽それ自体を慈しむ姿勢の濃淡が浮き彫りになるだろう。


<文/音楽批評・石黒隆之>





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