光武「ちょっと考えごとをしてました。ごめんなさい！」 橋本「でも私もよくやりますよ。ゼミの発表の途中でそれやって、教授から叱られたばかりです」 光武「で、こだわりの強さでしたよね」 橋本「そうなんですよ。実は今まで何人かと付き合ってみたことはあったんですけど。手をつなぐことさえすごく嫌悪感があったんです。ましてその先なんて考えるだけでもおぞましかったんです。男性と2人で遊びに出かけることは全然できるんですけど、性を意識したとたん、気持ち悪くなってしまって」 光武「それは、なかなか大変でしたね。ほかにもきつかったことはありますか？」 橋本「相手が私に向けてくる“好き”と私が相手に向ける“好き”のズレが一番きつかったです。今ならわかるんですけど、私の恋愛対象となる人の範囲が狭すぎて、その条件から外れる人を愛せなかっただけなんですよね。でも、あまりにズレが大きすぎて、自分がアセクシャル（無性愛）やレズビアンではないかと思い、しばらく新宿二丁目のビアンバーに入り浸っていました」 光武「でも、ようやく橋本さんの狭いストライクゾーンにピッタリな彼氏ができたんですね」 橋本「なんだろうな。私の場合、こだわりが強すぎて、本当に条件に合う人じゃないと好きになれないみたいです」 光武「ちなみに橋本さんのこだわりの条件って何だったんですか？」 橋本「ええと……、まず私が他人の気持ちを察することができないので、なんでも気持ちを言語化してくれる人で」 光武「ふむふむ」 橋本「あとは大学院での私の研究に対して理解があって適切なアドバイスをくれて、他人に対して寛容で滅多に怒らなくて、それに物事に対するこだわりがなくて、どんなことでも受け入れることができる人ですね」 光武「なかなか器の大きい人じゃないと厳しそうですね……」 橋本「わたしって、人を見る目が非常にフラットで。この基準は絶対にブレないんです。無理して合わせるくらいなら友人でいいやと思うんで」 　多くの当事者のお客様から話を聞いていると、橋本さんのように“強すぎるこだわり”を持つゆえに、なかなか恋愛に踏み出せないという方はかなりいらっしゃいます。そんなとき、僕は恋愛を「部屋探し」にたとえるんです。 光武「物件探しで『家賃15万円以下・築浅・表参道駅徒歩3分以内・2LDK以上・南向きの角部屋・ユニットバス不可・ロフトあり・ペット飼育可』……みたいな、とてつもなくレアな物件をひたすら探し続けていたのかもしれませんね。あまりに物件がヒットしないから、『そもそも自分は検索すること自体おかしいのでは？』と思っていらっしゃったのかなって」 橋本「そのたとえシックリきます。言葉にするとやっぱりスッキリしますね」 光武「ちなみに、ようやくできた彼氏はどんな人なんですか？」 橋本「ふふふ、父のようなADHDの人です（笑） 」 光武「オチはそこですか!!!」 　気づいたら同じように特性を持っている人を求めている。これもある意味、発達障害者の“恋愛あるある”かと……。 「せっかくだしウイスキー次は飲もうかな。ラフロイグをストレートで！」 　にっこり笑いながらお酒を美味しそうに飲む橋本さんは凄く輝いていました。すべての当事者の恋に幸あれ！ 　今回もご愛読、誠にありがとうございました。またのご来店をお待ちしています。 ＊お客側の登場人物はプライバシーの問題から情報を脚色して掲載しています。 ＜文／光武克　構成／姫野桂　撮影／渡辺秀之＞
（みつたけ・すぐる） 発達障害バー「The BRATs（ブラッツ）」のマスター。昼間は予備校のフリー講師として働く傍ら、‘17年、高田馬場に同店をオープン。’18年6月からは渋谷に移転して営業中。発達障害に関する講演やトークショーにも出演する。店舗HP（brats.shopinfo.jp）　ツイッターアカウント「@bar_brats」