五輪に負けないスピーディーで白熱した展開に夢中
ウチワをパタパタやりながら見守る試合。4面のコートで展開される試合は、どれも微妙に見た目が異なっています。それもそのはず、
パラバドミントンは障がいの種類によって異なるいくつかの種目があり、とてもバラエティに富んでいるのです。
一番パラっぽいのが足が不自由な選手が車イスに乗って競う、「WH1」「WH2」のクラス。これらのクラスは移動に不自由があることを考慮して、通常のバドミントンとは少しルール上異なる部分があります。シングルスでは通常のバドミントンのコートを縦に半分にした範囲だけを使用したり、ネット際のスペースはそもそも競技区域から除外しているのです。ネット際が競技区域から除外されていることでいわゆるヘアピン(ネット際にポトリと落とす短いショット)はできません。WH1のほうが不自由さが大きく、なんとなく一番メインの種目っぽい存在感があります。

WH1・WH2シングルスでは縦半分のコートで激しいラリーが応酬される

前後のゆさぶりで勝負がつくので、車イスを素早く前後させつつ、上体を大きく伸ばして打つ
「SL3」「SL4」と呼ばれる立位下肢障がいのクラスは、麻痺や切断によって足に不自由があるものの、義足などを用いて立位で試合をするクラスです。より不自由なSL3のクラスのシングルスは車イスのクラスと同様にコートを縦半分に狭めたりしますが、不自由さの軽いSL4のクラスは通常のバドミントンと同様にコート全面を使用します。知らない選手同士の対戦だと、パラ競技なのかどうかわからなくなるくらい、スピーディーな攻防が展開されます。
よくよく見ると確かに義足をつけていたり、足にサポーターを巻いていたりするのですが、遠目に見るぶんには何の不自由もないかのような動き。パラ競技というと、車イスに乗っていたりして「いかにも」な違いがあるものですが、うっかりするとパラ競技であることすら気づかずにスルーしてしまいそうです。

素早いバックステップからジャンピングスマッシュを放つ場面も
そして、「SU5」というクラスにはおもに腕の不自由な選手が組み入れられますが、ここまでくると動きにはほとんど影響がなさそう。コート全面を使って、前後左右に揺さぶり、エグいショットを四隅に打ち込んでいきます。さらに「SS6」という低身長の選手が出場するクラスは、身長が低いということを除けば不自由があるわけではないので、ただただ身長の低い人同士のバドミントンです。

低身長クラスは陸上競技などにもあるものの、何故か卓球やテニスではパラリンピックに採用されていないクラス

SL3からSU5クラスの選手が混合で競うダブルスは、よく見ないと「パラ感」が見つけられない

不自由な瞬間をとらえても、たぶん説明されないとわからない
写真の奥側の鈴木亜弥子選手は、生まれつき右腕が肩より上にあがらないという不自由を抱えているとのこと。ただ、その不自由は決定的な不利につながるものではないので、学生年代では全国クラスの成績を一般の大会で残した選手でもあります。動きや強さも含めて、このまま市民大会とかに混ざっていてもパラバドミントンの選手だとは気づかれないでしょう。
パラ競技なんだけど、パラっぽくない種目もある。その月並み感というのは、一周回って際立つパラバドミントンならではの個性かもしれません。観戦中もついつい自分がパラ競技を見ているということを忘れてしまいました。
さて、注目の日本勢の活躍はというと、通常のバドミントンに負けず劣らずのもの。先ほどの鈴木亜弥子選手はSL3-SU5クラスの女子ダブルス、SU5クラスのシングルスで2冠を達成。WH1クラス女子シングルスでは里見紗李奈選手、WH2クラス女子シングルスでは山崎悠麻選手がそれぞれ優勝し、この2選手はダブルスでペアを組んでそちらでも優勝。素早いバックステップからジャンピングスマッシュを放っていた藤原大輔選手のペアも、SL3-SL4男子ダブルスで優勝しています。
全部で18種目が開催されたなかで、9種目で日本選手が金メダルを獲得するという具合でした。

WH1クラス女子シングルスで優勝の里見選手

WH2クラス女子シングルス優勝のほか合計金3個獲得の山崎選手。なるほど応援バナーも出るわけだ……
もちろんこの大会は世界選手権ではありませんので、上位選手がすべて出場しているわけではありませんが、日本勢の金メダルへの期待というのは
通常のバドミントンと変わらず高い、日本勢にチカラのある競技です。この大会でも世界ランク上位の日本選手が多数出場し、チカラを発揮していました。
通常のバドミントンに勝るとも劣らない期待感、パッと見でパラ感のない種目の数々、そして会場の思いがけない熱気。これは保険という意味を超えて、五輪感をも体験できるパラ競技と言えそうです。
「プリンに醤油をかけるとウニの味がする」みたいな感じで、違うことは違うんだけど「ほとんど同じかも?」とついつい思ってしまう、そんな競技であると。
五輪を見たいけどチケットが獲れなかったのでパラリンピックに行くというパターンにも、パラリンピックならではの戦いを見たいというパターンにも対応する器用な穴場、それがパラバドミントン。パラリンピック本番の会場は国立代々木競技場ということで、まず問題はないと思われますが、
一応熱気対策としてのウチワ、こちらだけ忘れずに向かっていただければと思います。

エアコンとほとんど同じもの、それがウチワ