更新日:2018年12月03日 21:22
エンタメ

M-1はなぜ霜降り明星が優勝したのか? ユウキロックがM-1グランプリ2018を総括

辛辣なコメントが相次ぎ、重い空気が流れたファーストラウンド

 今回も「笑神籤(えみくじ)」で登場順が出番直前に決まることとなった。それ以上に大きな出来事は、放送時間が過去最長になり、これがもたらす効果である。放送時間が長くなった分、審査員のコメント時間が多くなり、辛辣なコメントが続けば、会場にダイレクトに響き、重たい空気に包まれるのだ。
見取り図

見取り図 (c)2018 M-1GRANDPRIX、(c)ABCテレビ/吉本興業

 ファーストラウンド。トップバッターに登場したのが初出場の「見取り図」。ここが劇場のイチ興行なら問題のない出来である。しかし、ここは「M-1」。人生を変える場所。「M-1」経験者や知名度がある出演者ならいざ知らず、初出場組は予備知識がない分、誰かと比較されたほうが絶対有利なのである。「トップ=基準点」とはよく言うが、初出場組は、それよりもさらに若干下げられる傾向にあり、ほとんどが下位に沈む。「見取り図」も606点と得点は伸びず、結果9位でフィニッシュとなった。ここでの審査員のコメントも手厳しい。重苦しい空気の中、2番手、3番手に「スーパーマラドーナ」「かまいたち」という決勝連続出場者が続く。「ひ弱キャラ」の田中君を「サイコパス」に仕立て上げた武智君。自分たちと向き合い、絞り出した最高のネタだったが、後半伸びてこず617点。「見取り図」とともに審査員のコメントが辛辣だ。空気が重くなっていく。続く「かまいたち」は「タイムマシンに乗って」という、今までいろんなコンビがやってきた設定を、2人ならではのやり取りで変幻自在に、巧みな演技力で見せた。636点。しかし、安全圏ではない。  そして、4番手に登場し完全に空気を変えたコンビが今年、「M-1ラストイヤー」となる「ジャルジャル」だった。彼らは昨年、審査員の松本人志さんから「一番面白かった」と言わしめた「校内放送」ネタを踏襲する「国名分けっこ」というネタを披露。「校内放送」ネタよりも、ルール説明が短く、ワード自体もキャッチーであり、前回以上に聞き心地のいいネタに仕上げた。松本さんはもちろんのこと前回、89点だった「中川家」礼二も93点を提示、初審査員の立川志らく師匠に至っては99点という高得点を記録。「かまいたち」を前説扱いにし、648点という高得点を叩き出した。
ジャルジャル

ジャルジャル (c)2018 M-1GRANDPRIX、(c)ABCテレビ/吉本興業

 5番手に登場したのが「M-1ラストイヤー」にして初出場の「ギャロップ」。披露したネタは準々決勝と準決勝と同じネタである。準決勝ではノーマークであり、準々決勝と同じネタだったが、一切「ネタバレ」を感じさせず爆笑で決勝進出した。しかし、そこから注目されたのだろう。同じネタが動画サイト「GYAO!」で本番当日も配信されており、「ネタバレ」は否めなかった。614点と得点伸びず。6番手は2年連続決勝進出の「ゆにばーす」。インパクトが残せず594点と最下位に沈む。辛辣なコメントが長く、ここでまたもや、重たい空気に戻ってしまう。
ゆにばーす

ゆにばーす (c)2018 M-1GRANDPRIX、(c)ABCテレビ/吉本興業

 この空気で終盤。一変させるチャンスだ。7番手に登場するコンビはどのコンビでも得をする。そこに登場したのが、敗者復活戦を勝ち抜いた「ミキ」だから面白い。やはり彼らは、スターなのだろうか。強運を感じる。ネタは「ギャロップ」と似ているのだが、重たい空気をテンションと疾走感で一変させた。638点と2位に食い込んだ。そして、8番手に登場した唯一のヨシモト所属ではないコンビである「トム・ブラウン」。俺が最強ネタだと思っていた「加藤一二三」ネタを温存して勝負したが得点は伸びず633点と、3位にわずか3点足りず即敗退が確定した。しかし、強烈なインパクトを与えることには成功した。  その時点での順位は上から「ジャルジャル」「ミキ」「かまいたち」。「ジャルジャル」の最終決戦進出が決まり、残すは2組。その1組は「和牛」だ。「かまいたち」は祈り、「ミキ」はなんとか3位は死守できると思っていただろう。そんな2組の思いをすべて粉々にしたコンビが8番手に登場した「霜降り明星」だった。ボケ数が多く、すべてが高水準で爆笑に次ぐ爆笑。それを最後まで続けてフィニッシュ。誰が見ても今日一番のウケ具合だった。662点。即最終決戦進出が決まり、一瞬にして優勝候補に躍り出た。
和牛

和牛 (c)2018 M-1GRANDPRIX、(c)ABCテレビ/吉本興業

 そして、ラストに登場したのが2年連続準優勝、優勝候補筆頭の「和牛」。俺はこのネタを準決勝で見て、知っていた。だから、一緒に見ていた先輩芸人の方たちに「すごいネタです」と伝えていた。そんな先輩方も2分30秒過ぎからは「ほんまに大丈夫なん?」と聞いてくるほど、爆発はしていなかった。しかし、気がつけばコントに入っており、笑いは津波のようにやってきて、大爆笑のフィニッシュだった。点数は656点と「霜降り明星」にわずかに及ばず2位。勢いに乗る「ミキ」を引きずり落とした。前半に爆発した「ジャルジャル」も、まさか3位まで後退させられるとは思っても見なかっただろう。
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出場資格年数など関係ないことを証明した「過去最高レベルの最年少王者」
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1972年、大阪府生まれ。1992年、11期生としてNSC大阪校に入校。主な同期に「中川家」、ケンドーコバヤシ、たむらけんじ、陣内智則らがいる。NSC在学中にケンドーコバヤシと「松口VS小林」を結成。1995年に解散後、大上邦博と「ハリガネロック」を結成、「ABCお笑い新人グランプリ」など賞レースを席巻。その後も「第1回M-1グランプリ」準優勝、「第4回爆笑オンエアバトル チャンピオン大会」優勝などの実績を重ねるが、2014年にコンビを解散。著書『芸人迷子

芸人迷子

島田紳助、松本人志、千原ジュニア、中川家、ケンドーコバヤシ、ブラックマヨネーズ……笑いの傑物たちとの日々の中で出会った「面白さ」と「悲しさ」を綴った入魂の迷走録。

⇒試し読みも出来る! ユウキロック著『芸人迷子』特設サイト(http://www.fusosha.co.jp/special/geininmaigo/)

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