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東京を批判してたおっさんの上・京・物・語――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第23話>

東京について教えろと食い下がってきたおっさん

入ってみるとさすが奇跡と唸るばかりで、僕が想像する小料理屋そのままだった。やや色っぽい女将に、それを狙う常連のおっさんたち、新参者を寄せ付けない雰囲気がムンムンに漂っていた。 「どちらからいらしたんですか?」 やや色っぽい女将がカウンター越しに小鉢を出しながら言った。完全に余所者だと分かるようだ。 「東京からです」 そう答えながら小鉢の中身を食す。なかなか手間がかかっているようで美味かった。 「へえ、東京から!」 女将の驚きの声に反応して、さきほど僕を店に招き入れた常連おっさんが口を挟んだ。 「なんでもかんでも東京ってのは、おかしいんじゃないか」 突然の一極集中批判である。 この国は東京という場所に全てが集中するようにできている。人も金も政治も経済も、全てが東京だ。それは確かだ。僕もそれはそうだと思うし、正すべき事象だとも思っている。発展において一極集中が必要である側面もあるが、もう日本という国には必要ないのではないか。そう思うが、まさかこんな小料理屋でそんな批判が聞かれるとは思わなかった。 「俺の息子はよう、どれだけ止めても東京に出て行っちまいやがった。この街には何もないって言い残してな」 おっさんはさらに東京を批判し続けた。そんなこと僕に言われても困る。 「そんなの必要な時に東京行けばいいじゃねえ、空港だってできたさ、飛行機でいけばいいだろ」 おっさんは止まらない。 「そ、そうですね」 僕もついついそう答えてしまった。同意を得て調子に乗ったのか、おっさんは続ける。 「そういう問題じゃねえっていうわけよ。田舎は、飛行機のチケットとって空港行って、飛行機乗って東京だ。でも東京に住めばドアを開ければ東京だ、そう言うわけよ」 なるほど、一理ある。 「なにせ東京ですからねえ」 心の底からどうでもよくなってきたらしく適当なことを言っている。 「教えてくれ、いったい東京には何があるんだ?」 おっさんは身を乗り出すようにしてそう言った。僕は少し考え、小鉢の中身を箸でつまんで一口食べた後に答えた。 「なあに、人が多いだけで何もない場所ですよ、東京は」 お、言いたかったセリフだ。 そんなこんなで、常連と打ち解けてしまい、美味しい郷土料理を食べることもでき、さらには地酒も飲むことができ、思った以上に楽しんでしまった。 あれだけ入りにくい店だと思っていたのに、入ってみるとそうではない。何事も経験してみないと分からないものだなあという知見を得ることができたのだ。 それじゃあ十分に堪能したしそろそろビジネスホテルに入って、などと席を立とうとしたら、あの東京嫌いのおっさんに強烈に引き留められた。 「まてまて、まだ東京の話は終わっていない」
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おっさん「来ちゃった」
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