東京を批判してたおっさんの上・京・物・語――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第23話>
おっさん「来ちゃった」
こちらとしては終わるも何もないのだけれども、あまりにしつこいので少し突き放し気味に言ってしまった。
「そんなに東京が嫌いなら、一度来てみるべきでは?」
僕の提案におっさんは少し拍子抜けしたような表情を見せた。どうやら思いもよらない言葉だったらしい。さらに続けた。
「東京に行ったことはないんですか?」
僕の言葉におっさんは首を横に振り、もっともらしい理由を並べ始めた。
「だって東京は遠いし、それに田舎者には敷居が高い。治安も悪そうで怖い。行きにくい雰囲気がある」
その言葉は、僕が小料理屋に入りにくいと言った理由に似通っていた。
「行ったこともないのに悪口を言ってるんですか」
「それに飛行機ですぐって言ってたじゃないですか」
「僕もこのお店に入りにくいなあって思っていたけど、入ってみたらとても美味しくて楽しかった。東京だってそうかもしれませんよ」
それでもおっさんは渋った。なにやら小声でグチグチと理由を並べている。
「東京に来たら僕が案内してあげますよ」
売り言葉に買い言葉、とはこのことだろうか。ついつい勢いで連絡先まで教えてしまった。東京に着いたらここに連絡ください。飛んでいくので。案内しますよ。
「わかった。息子が住んでる場所に行くよ。本当に案内してくれるんだろうな」
おっさんは渋々ではあるが覚悟したようだった。
「どこの駅にいるかさえ教えてくれたら飛んでいきますよ。イメージの東京と実際の東京、違うかもしれませんし」
そう言って小料理屋をあとにした。
もちろん、本当におっさんが東京に来るとは思っていない。こういった酒の席でのやりとりは、ほとんどあてにならないものだ。
僕だって何度か女の子と今度遊ぼうと約束したが、まるでそんな約束が幻だったかのように思わせてくれることばかりだ。
きっとおっさんだって本当に東京に来るわけないし、来たとしても僕に連絡してくるわけはない。そう思っていた。それが普通だ。酒の席での約束なんてそんなもんだ。
そんなことを思いながらホテルへと帰った。
東京に戻ってしばらくしてからだった。その日は、けっこう大切な約束があったので朝から忙しなく準備をしていた。そこに1通のメッセージが着弾した。
「いま、東京についた」
あのおっさんだった。あの野郎、本当に来やがった。
「どこにいるんですか?」
「息子が住んでいる場所」
「わかんないですよ。何駅ですか?」
こうして、僕は従来の約束を何度も謝ってキャンセルし、指定された駅へと向かった。おっさんは約束を守った。ならば僕も守らねばならないのだろう。