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東京を批判してたおっさんの上・京・物・語――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第23話>

「東京すげえ!」と感きわまるおっさんに言えなかったこと

指定の駅に到着すると、おっさんは一番人が多い改札で茫然と立ち尽くしていた。川のように流れる無数の人を眺めて半分口が開いてた。 「本当に来たんですね」 僕がそう言って話しかけると、かなりビクッとしていた。 「来たぞ、案内してくれ」 おっさんはそう言ったが、正直に言うと僕自身もあまり来たことがない駅だったので自信がなかったが、まあ何とかなるだろうと歩き出し、地下通路を抜けて地上へと出た。 そこには圧倒的なビル群がそびえ立っていた。百貨店にビックカメラ、巨大なホテル、大きな企業の本社ビルまである。あまりの都会さに東京に住んでいる僕もたじろくほどだ。 「この駅ではですね、いつもどこか工事してるんですよ」 巨大ターミナル駅はいつだって工事中だ。そう説明したら本当に目の前に工事中のエリアが出てきたので、おっさんは本当に驚いていた。 この出口はパチンコ屋が沢山ある。この出口は飲み屋が沢山ある。さらに奥に行くとラブホテルがあって、エロい店とかに使われることもあります。こっちの出口はめちゃくちゃ有名な企業の本社ビルがあります。そうやって各出口を解説していく。駅周辺しかわからないからだ。 それでもおっさんは、全ての出口で驚いてくれて、「すげーすげー」と言っていた。 そんな中で事件が起こった。自由通路をおっさんと歩いているとき、おっさんが持っていた帰りの航空券をハラリとポケットから落としてしまった。気づかずに進んでいく僕とおっさん、それを見てゴリゴリにタトゥーとか入ってそうな若者がめちゃくちゃ走って追いかけて届けてくれた。 「落としたっすよ、これないと困るっしょ」 そんな感じでぜーぜー言いながら渡してくれた。おっさんは明らかに「東京って捨てたもんじゃないなあ」という顔をしていた。そして、一通り駅周辺の案内が終わるとこう言った。 「ありがとう。俺は東京という町を誤解していた。人はたくさんいる。確かに何でもある。俺みたいな田舎者は居心地が悪いけど、それでもそんなに捨てたものじゃないと思う。華やかな雰囲気も楽しいし、人も親切だ」 そう言った。 「ありがとう。これから息子の家に行くよ」 おっさんはそう言って手を振りながら都会の雑踏へと消えていった。 なにごとも外から見るのと実際に入ってみるのとでは大違いである。それは小料理屋であろうと、東京であろうと、変わりないのだろう。僕らはいつも外側から見る印象で多くのことを誤解しているのだ。 おっさんはきっと息子と仲直りするのだろう。誤解が解けて、お前が住んでいる場所もまんざらではない、そう言って仲直りするんじゃないだろうか。なんにせよ、おっさんが抱いている誤解が解けてよかった。 ただ、おっさんは一つだけ大きな誤解をしている。 東京すげー、東京すげー、そう言ってずっと見ていたこの大都会の駅は、横浜駅だ。東京じゃない。僕らの心は誤解でできているのだ。 というか、息子さんも東京に住んでないじゃないかと思いつつも、まあいいかとおっさんを見送った。 【pato】 テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。ブログ「多目的トイレ」 twitter(@pato_numeriテキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。6月29日、本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)を上梓。ブログ「多目的トイレ」 twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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