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人は時に、不条理な行動をする。メイド喫茶での途切れぬライブオーダーの果てに――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第36話>

ゴトウさんに似たおっさんは完全に死にかけていた

 店内は白とピンクで統一された内装だった。店内には先客がいた。サラリーマン風の青年、一流ホームページというテキストサイトを運営しているゴトウさんに似たおっさんの2人だ。いずれも単独客、まだ時間が早かったためか、店内は少し寂しかった。  店内には4人くらいのメイドさんがいて、にこやかな笑顔で対応してくれた。よくシステムは分からなかったが、ちょっとしたスナック類とドリンクを頼んで落ち着いた。なるほど、メイドカフェとはこんなものなのか、基本的には喫茶店で、メイドさんが対応してくれる感じなのだな、とか考えていた。けれども、実はそうではないとこの直後に思い知らされることになる。  落ち着いた店内、とか思いながらドリンクを飲んでいると、突如として爆音が店内に響いた。 「なんだなんだ」  驚いて周囲を見渡すと、何もない謎の空間みたいな場所が突如としてステージに早変わり、そこにメイドさんが登場してライブが始まった。  落ち着いた空間なんてとんでもない。喫茶店と同じなんてとんでもない。サイリウムまで登場してきて、熱量高いライブが始まったのだ。  しかも、ステージに上がったメイドさん、客を煽る煽る。全盛期のハルクホーガンかってくらいに客を煽る。それに煽られてサラリーマン青年が、ヤバイ薬でもやってんじゃないかってくらいに踊り狂ってた。かなり電気的なグルーヴを感じるくらいに踊り狂っていた。 「ハァハァ」  息も絶え絶えだ。メイドさんに煽られてライブを楽しんだこちらの面々は汗が吹き出し呼吸も荒い。ゴトウさんに似た人なんてもう汗だくで死にそうだ。 「1時間に1回とかそういうタイミングでライブがあるのかな。それならいいタイミングに来たものだ」  などと考え、あとは落ち着いた時を過ごそうかな、とか考えていたらそうではなかった。数分すると、また爆音が鳴り響き、ライブが始まった。  メイドさんはまたキレッキレのダンスを披露し、客を煽る煽る。全盛期のスティングのように客を煽る煽る。またサラリーマン青年がぶっ壊れたマリオネットみたいになって踊っていた。  ライブに次ぐライブの連続で頼んだドリンクを飲む時間すらない。なんでこんなにライブの連続なんだ、そういうシステムなのか、と驚愕したが、実はそうではなかったらしい。  どうやら、このライブ、2時間に1回くらいの間隔で開催されるのだけれども、それ以外にも客がお金を払ってオーダーするとその都度、開催されるらしい。2000円とか孫くらいだと思う。そして、さっきからサラリーマン青年が連発でライブをオーダーしている。なにがしたいんだこいつ。  連発のライブに全てのメンツが疲れ切っていた。特にゴトウさんに似た人は完全に死にかけている。今にも心臓が止まりそうだ。  そしてまた、青年によってライブがオーダーされた。 「今日は行くとこまで行く。限界までいく」  まるで彼がそう言っているように思えた。体力的にもうゴトウさんに似た人はもたない。完全に虫の息だ。次が最後のライブになるかもしれない。そう確信した。そして、そこで事件が起こった。
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なぜゴトウさんはあそこでそんなことを言い出したのか
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