「うまい話」に釣られてノコノコやってきたおっさんが探していた“仲間”――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第43話>
―[おっさんは二度死ぬ]―
昭和は過ぎ、平成も終わり、時代はもう令和。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか——伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート!
【第42話】うまい話のワケ
うまい話にはワケがある。
昔も今も世の中とはそうそう変わらないもので、「楽して儲ける方法を教えます」なんてうまい話を売りつける商売が存在する。
パチンコの攻略法を売りつけたり、競馬の絶対当たる予想を売りつけたり、昨今では買うだけで寝ていても儲かる情報商材などなど。いつの時代も「楽して儲かりたい」という気持ちに付け込んでくるものがあるのだ。
ちょっとインターネットで検索すれば、そういった商売はやまほどでてくる。まるで世の中ってやつはずいぶんと楽勝で、ほっといてもガンガン口座にカネが振り込まれてくる世界なのだと錯覚するほどだ。本当に簡単そうな気がしてくるから不思議だ。
そこで疑問が生じてくる。なぜ寝ていてもカネが振り込まれてくる方法を販売するのかという点だ。そういう情報を知っているならば、僕ならば内緒にしておいて自分だけ貰い続ける。けれども、彼らは最後のチャンスとか煽りながらガンガン販売してくる。この時点で様々な部分が矛盾している。
けれども、それらを信じる人が一定数はいるのだ。では、その心理はなんなのだろうか。
「この話だけは特別だ!」
普通に考えておかしいものなのに、これだけは特別! 大丈夫! という心理が働くらしい。むしろ、そういう心理に落とし込むことこそがこの種の商売の常套手段なのだろう。
そういえば、貧しき大学生だった時代にこんなことがあった。
片田舎の大学に通う暇でお金のない大学生だった僕は、地域の情報誌みたいなものを愛読していた。その、情報誌は強烈にローカル色が強く、コンビニなどで無料配布されていたものだった。
その情報誌は結構気軽な感じで、なおかつ無料で「〇〇募集」といったものを掲載できるらしく、なかなか活発にそれらが掲載されていた。それこそ、犬猫の里親募集レベルから、正社員募集まで様々だ。お店の宣伝なんかもたくさん掲載されていた。
座っているだけで日給1万円だとか、弁当支給だとか、そういったおいしいバイトの情報が稀に載っていたので要チェックしていた。見かければ手に取って持って帰る。そんな感じだ。
この情報誌には、そういったバイトの募集以外にも「交流掲示板」みたいな読者のコーナーがあり、そこが現代ではなかなか体験できないカオスが展開されていた。はっきり言ってしまうとけっこうめちゃくちゃなコーナーだった。
基本的には「文通相手」「趣味友達」「交際相手」そういったものを募るコーナーだったのだけど、意図的にそういったものばかり掲載していたのか、それとも頭がおかしい人しかこの地域にはいなかったのか定かではないが、それらの投稿は総じておかしかった。たぶん検閲とかしていないだろうというレベルでカオスだった。
「前世の仲間を探しています。心当たりがある方は連絡を。すでに2人は見つけました」
という投稿があったかと思えば、
「素手で歯を抜ける人募集」
という何がしたいのかさっぱり分からないものまである。この人のものを抜くのか、それとも自分のものを抜くのか。なんにせよ歯医者いけ。
「ほがらかなサークルです。楽しい仲間たちと週末など飲みに行きませんか。ただし『田中』姓の方はご遠慮ください」
いったい田中が何をしたのか。
「戸籍謄本とパスポートを持ってくることができる人。15分程度で終わる作業です」
のこのこと行ったら何されるかわかったもんじゃない。僕の戸籍をどうするつもりだ。
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri)
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『pato「おっさんは二度死ぬ」』 “全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"―― |
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