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「うまい話」に釣られてノコノコやってきたおっさんが探していた“仲間”――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第43話>

 

あの投稿、お前だったのか

 店の前で作業服おっさんと海パンおっさんの押し問答が続いていた。 「いいから約束守れよ、軽自動車無料で寄越せ」 「ですから入会していただかないと」 「いいから寄越せ! てめー、こんな詐欺みたいなことしていると来世でロクなことないぞ!」  結局、押し問答の甲斐もなく、僕も作業服おっさんも軽自動車を貰えず追い返されることとなった。  帰り路、軽自動車を貰えなかった僕たちはトボトボ歩いていた。そこで作業服おっさんと少し話をした。 「いやあ、やはりうまい話にはワケがありますね」 「そうだな、あんな情報誌の投稿を信じたばっかりに、くそっ、仕事休んできちまったよ」  何事もうまい話にはワケがあるのである。どんなにうまい話であっても、そんなことありえるのだろうかと冷静に考えなければならない。「この話だけは信頼できる」という状況が最も危険なのである。  延々と続くながい道路の街路樹が風に揺れていた。 「そういえば、さっきの押し問答の時に来世でロクなことがないとか言ってましたけど」  会話が途切れてしまったので、ふいにそう尋ねるとおっさんは急に真面目な顔になって答えた。 「この世はずっと前世から繋がっていて来世へと繋がっている。大切なのはその繋がりを意識することだ。俺はずっと前世の仲間を探している。普段はあの情報誌で探してるんだがな、もう2人見つけてる」  と急に輪廻転生のことを言い出した。あの投稿、お前だったのか。 「お前は妙に気が合うし、前世の仲間かもしれない」  そんな訳の分からないことを真顔で言いだし、 「ほかの仲間はかわいい女子大生だぞ。前世の仲間になれば紹介できる」  と言い出したけれども、「そんなうまい話があるわけない。きっとワケがある」と思いつつも、彼の真剣な眼差しをみていると、「もしかして本当にこの話だけは特別なのかも」という想いが生まれて、前世からの仲間だったような気がしてきた。 【pato】 テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。ブログ「多目的トイレ」 twitter(@pato_numeri) ロゴ・イラスト/マミヤ狂四郎(@mamiyak46
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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