更新日:2023年03月21日 16:22
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「うまい話」に釣られてノコノコやってきたおっさんが探していた“仲間”――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第43話>

やはりうまい話にはワケがあった……が、おっさんは暴れ出した

「すいません、軽自動車もらいに来たんですけど」  開口一番のセリフとしてはなかなか非日常的なものがあると思いつつ中を見渡すと、書類の山みたいなものの横にゴミの山みたいなものがあって、そのさらに横にあるソファーに、海パンを普段着と勘違いしてそうな、アロハ姿の怪しいおっさんが座ってテレビを観ていた。  おっさんは振り返ってこう言った。 「あ、軽自動車をもらいに来た人?」  さっきから「軽自動車をもらう」以外のセリフが交わされていない点からもこの状況の異常さが伺える。 「いまから説明するからちょっとまってねー」  おっさんはノッソリと起き上がり、僕と作業服のおっさんに座るように促した。  ここまで来て、僕は初めて怪しいと感じ始めていた。ポーンと軽自動車を10台大盤振る舞い! みたいな気前の良さを1ミリも感じないのだ。散らかっている弁当のゴミも全部「半額!!」のシールが付いているやつだったし。ぜんぜん気前が良くない。 「やはりうまい話にはワケがあるのだ」  そう実感していると、海パンのおっさんは切々と説明を始めた。それは完全にワケだった。  色々と複雑なシステムで、おそらく色々なことに配慮して複雑なことになっているのだろうけど、簡単に言ってしまうと、確かに軽自動車は無料で貰える。けれどもそれには、別のナントカ会に入会し、その特典として貰えるというものだった。で、そのナントカ会の入会金が普通に軽自動車を2台くらい買えるレベルで、ローンもできますよ、というものだった。  まあ早い話、軽自動車で釣っておいて、まんまと引っかかったバカに法外な入会金を支払わせるというものだった。完全にワケだ。 「やはりうまい話にはワケがあるな~」  そう感じながら、こんな法外な値段のローンを組むわけにはいかないので、どうやって逃げるか算段を立てていると、隣に座っていた作業服のおっさんが叫び出した。 「そんなワケあるわけねえー!」  大声で叫んで立ち上がった。めちゃくちゃビックリした。僕はワケがあると考えていたが、彼はワケがあるわけないと怒り狂った。  「俺は軽自動車だけもらいに来たんだー! 無料でもらいに来たんだー! 金は払わねえ!」  確かにその通りだけど、冷静に考えるとすごいセリフだな。  立ち上がった作業服のおっさんは、海パンの制止を振り切り、そのまま机の上に置いてあった鍵を鷲掴みにし、店の前の軽自動車を盗もうと飛び出した。
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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