更新日:2023年04月18日 10:56
ライフ

夏の花火と廃工場、そして”ジャンプおじさん”――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第56話>

おっさんが電影少女しか読まなかった理由

 本当にジャンプおじさんは廃工場で寝ていて、僕が持っていた懐中電灯の光に飛び上がるようにして驚いた。ジャンプおじさんがジャンプして驚いていた。  「死ぬかと思った。もう二度としないでくれ」  暗闇の中の光、それは妻に追い立てられたときのことがフラッシュバックし、心臓がバクバクするらしい。絶対にやめて欲しい、そう言った。いったいどんな追い立てられ方をしたんだろうか。  それから土曜日になるとジャンプおじさんと交流するようになった。僕が買ったジャンプを読むとき、やはりおじさんは電影少女しか読まなかった。  「どうして電影少女だけなの?」  僕の問いに、ジャンプおじさんは遠くを見ながら答えた。  「君よりちょっと年上くらいかなあ、子供がいてな。息子だよ。そいつがこればかり読んでたんだよ」  電影少女をめくりながらそう言った。ジャンプおじさんにもそういう家族とかあるんだと、とよく分からない感情が芽生えていた。遠くにセミの声が聞こえていた。  また土曜日がやってきた。その週は合併号か何かの事情で土曜日にジャンプが届かなかった。何人かのマヌケが合併号も知らずに駅の行列に並んでいたが、ジャンプが届かないと分かるとスゴスゴと退散してた。  「今日はジャンプおじさん来ないか」  そう考えながら駅前の商店街を抜けてスゴスゴと歩いていると、死にかけの商店街が妙に活気づいてた。朽ち果てる寸前のおもちゃ屋など、店の前にワゴンを置いて特売などを始めていた。  今日はジャンプが駅に届かない土曜日だけど、花火大会のある土曜日だ。だからこんなにも商店街が活気づいているのだ。  イベントといえば土曜日のジャンプ発売とこの花火大会くらいしかないしなびた街だ。ただその花火大会に賭ける意気込みはなかなかのものだった。それこそ商店街の最後の花火といわんばかりに力を入れていたのだ。  夜になり、ドーンドーンと遠くから花火の音が聞こえていた。今頃、港では花火が上がり、その光を浴びて大勢の観衆が声をあげているのだろう。同じクラスのあの子は浴衣を着ているかな、そんなことを考えていた。その瞬間、あることが気になった。  光……!  そう、花火とは光だ。気づいてしまったのだ。
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それはまるで、電影少女で描かれる尻のようだった
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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