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葬儀ビジネスが定着させた「香典の半返し」に怒り/鴻上尚史

父がしてくれた死と出会うレッスン

「口臭除去」は、20世紀の真ん中辺りに、アメリカで化粧品会社が行なった「誰もそれを教えてくれない」というキャンペーンの言葉から始まりました。それまで「口臭を気にする」という概念はありませんでした。  今、テレビでは、「部屋の臭い」を消そうというCMが連発されています。少し前は「体の臭い」でした。友達を自宅に招く時、家具やカーペットにシュッシュッしまくる風景はどこまで「常識」になっているのでしょうか。  なんでも商売にすればいいってもんじゃない、と思うのです。  でも、香典の「半返し」が問題だと思っても、死がすべて金額に換算されても、人生の中で何度もないので、人は我慢してやりすごしていくのだと思います。  本当は、見直さなければいけないことなのに。  僕が最初に見た死体は、祖父のものでした。小学生でしたが、棺桶に横たわる姿を、今でも強烈に覚えています。  死というものに直に接した初めての体験でした。ああ、死というものがあるんだ、空想でも物語でもないんだ、それは事実なんだ。現実に人は死ぬんだ、ということをまざまざと理解しました。  大往生した祖父から、死を教えられたことが良かったと今では思います。不慮の事故でもなく、誰かの自死でもなく、最初の死が、一番年長の祖父だったことが、子供にとっての正しい「死と出会うレッスン」だったと思うのです。  今回、子供達が父親の死体を見ました。一瞬、息を止め、身体が固まりました。生まれて初めて見た、リアルな死体でした。  父親は最後に、孫に対して正しい「死と出会うレッスン」をしてくれたと思いました。手を合わせる子供達の後ろで、「じいちゃんの最後の孫孝行」に深く感謝しました。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

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