安倍内閣の検察への人事介入が汚職隠しでなければ何なのか?/倉山満
本来、法律では検事の定年延長は認められていない。検察庁法では、検事総長のみ65歳で他の検事は63歳、と明記されている。その上位法である国家公務員法で定年を制定した際、当時の政府は「検事は国家公務員法の適用外」と明言した。これは政府公式見解である。
ところが今年1月、安倍内閣は突如として国家公務員法を黒川検事長に適用して、定年を延長した。
こんなことは本来ならば、できないはずである。立憲民主党や国民民主党は、この点を突いた。森法相は、目も当てられないほど右往左往するしかない。政治家の人事介入を嫌がる法務官僚が、わざと出来の悪い答弁を作成してサボタージュしているのではと勘繰りたくなる。あげく、森法相は「事前に人事院とも、内閣法制局とも相談した! 自分たちの解釈に自信を持っている」と、もはやヒステリーだ。
ところが肝心の安倍首相は「解釈変更を行った」とシレッと答弁する。
では、いつのまに?
人事院は、「過去の解釈は生きている」と真っ向から法務省の見解を否定する※。森法相からしたら、後ろから弾が飛んできた格好だ。
法の解釈が分かれた場合、最終的には総理大臣の責任で解決する。その際、政府は内閣法制局の見解を求めるのが通例だ。法制局は日本国の法令に関し有権解釈を行う役所だ。
では、近藤正春法制局長官は国会でどのように答えたか。
「今年の一月に入りまして検察庁法の現行の解釈を前提に次の改正を考える観点からそこについてのご説明があって、現行法をこう解釈します、というご説明がございまして、私共もそれを了としたところでございます…(中略)…特例を書いてあるところってのはほとんど解釈でやられておりまして明文上ははっきりしておりませんけども従来その解釈だったが…(中略)…検察官につきましても定年延長についての趣旨を適用するべきというふうに考えたいということでございまして、それ自身は今の条文からみますと十分可能な解釈であるということで私共も了と致しました」
風のような速さの答弁に、質問している野党議員も二の句が継げていなかった。おそらく、何が起きているかを理解できた人はほとんどいなかったのではないか。
要するに、法務省から「解釈を変更したいと言ってきたので検討したが、不可能ではないと考えたので認めた」である。この答弁をきっかけに、「黒川氏の定年の直前の1月になってから法務省が解釈変更をした。解釈の責任は法務省の責任である」との流れができている。
確かに、法律ができてしまえば、解釈の権限と責任は現用官庁にある。この場合は、法務省だ。だが内閣法制局は、あらゆる官庁を「その解釈には疑義がある」の一言で震え上がらせ、政治に対して最強の拒否権を行使してきた組織だ。何を今さら?
理由は簡単。「法務省の責任で処理せよ」と突き放したのだ。ここで近藤長官の答弁をよく聞くと、解釈変更は法的に「不可能ではない」と述べているだけで、結果責任を法務省、ひいては安倍内閣に押し付けている。
現在この問題に関し、朝日新聞とTBSが法的理論武装で正論を訴えている。背後には検察OBがついているから可能なのだ。
検察と法制局に挟撃され、妙にやる気が無い安倍首相が気になる……。
※脱稿後の19日、衆議院予算委員会で人事院はこの答弁を撤回した
風のような速さの答弁に、何が起きているかを理解できた人はほとんどいなかったのではないか
―[言論ストロングスタイル]―
1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中![]() | 『噓だらけの日本古代史』 ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作は、日本の神話から平安時代までの嘘を暴く! ![]() ![]() |
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