ニュース

日銀人事にみる安倍内閣「最後の良心」/倉山満

言論ストロングスタイル

1月21日配信の「チャンネルくらら 2020年の日本経済はどうなる?」にて、意見を交わす(左から)次期日銀審議委員に指名されたエコノミストの安達誠司氏と、評論家の江崎道朗氏

 総理大臣の権力とは何か。日銀人事に介入できることである。  昔は、政府が保有する金(きん)の上限までしか、お札を発行できなかった。金本位制である。この時代は、金融政策には、限界があった。それが今は変動相場制に移行している。政府の信用がある限り、無制限にお札を発行してよい。だから、現在は金融政策の役割は飛躍的に向上した。言ってしまえば、金融政策を司る日本銀行が、日本経済を握っていると言っても過言ではない。  その日本銀行の政策は、ほぼ月に1回開かれる政策決定会合で決められる。会合の参加者は、総裁1名、副総裁2名、審議委員6名の合計9人である。この9人が、事実上は日本経済を、ひいては日本の運命を左右している。身分保障は裁判官なみであり、犯罪でもやらない限り5年間クビになることはない。  3人の正副総裁は5年に1度一斉に入れ替わるが、6人の委員の任期切れはズレがある。任期切れのたびに総理大臣が意中の人物を国会に提示し、衆参両院の同意が得られたら承認される。これを国会同意人事と言う。他の事案と違い、衆議院の優越は無い。もし与党が参議院で過半数を持っていなければ、人事は通らない。そして政権は、飛ぶ。  現に2008年、参議院で多数を失っていた時の福田康夫内閣は、提示する総裁人事は否決され続け、1か月に及ぶ総裁空白に追い込まれ、遂には野党民主党が望む「白川方明総裁」を飲まされた。白川総裁はリーマンショックにおいて伝説的な無策を繰り広げ、日本人を地獄に叩き落した。大不況の中で総選挙に突入した自民党は歴史的大敗を喫し、民主党に政権を明け渡した。日銀人事は政治の天王山でもあるのだ。  この9人は、全員が対等の1票である。今の安倍内閣が長期政権を築けたのは、景気が回復軌道になるからである。単純化して言うと、黒田バズーカに端を発するアベノミクスで、政権当初から株価は爆上げ、景気は劇的な回復軌道に乗った。しかし、8%消費増税で一気に腰折れ、景気は劇的に急降下する。そこで黒田東彦総裁はバズーカ第二弾を放ち、その後は10%消費増税を延期したので景気の回復軌道は続いた。ハロウィン緩和と言われる。だが、黒田総裁がハロウィン緩和を政策決定会合に提案した時、5対4の薄氷の勝利だった。もしあの時、副総裁か委員のもう一人が反対に回っていたら、日本経済は即死していただろう。  これほどまでに、日銀人事は重要なのである。  さて、現在の政策決定会合は、常に7対2で割れている。アベノミクス維持が7、「生ぬるい! もっと景気回復策を採るべきだ!」と主張するのが2。その2は、片岡剛士委員と原田泰委員だ。その原田委員が任期切れで、安達誠司さんが後任として政府から提示された。片岡、原田、安達の三氏はいずれもリフレ派と呼ばれるエコノミストだ。  第一報が飛んできたとき、私は快哉を叫んだ。「安倍内閣にも最後の良心が残っていたか!」と。  安達さんは、私が主宰するインターネット番組チャンネルくららレギュラーで、毎週火曜日に「マーケットニュース」という番組で知見を披瀝してもらっている。ちなみに聞き手は、SPA!連載「ニュースディープスロート」でおなじみの、評論家の江崎道朗さんである。身内からの登用に、こればかりは安倍内閣の判断を全面的に支持しなければなるまい。
次のページ
8月以降、日本人が地獄に叩き落される前に、打つ手は三つある
1
2
Cxenseレコメンドウィジェット
おすすめ記事