更新日:2023年05月24日 15:06
お金

365日、毎日が博打。人気予想師・李正侑による競馬ノワールを連載開始<浦和桜花賞>

悪徳予想屋をおしおきした一件も覚えていた

「それでですね、お願いしたい話というのは~~~」  随分と流暢に話す男だ。たぶん口から生まれて来たんだろうな。  だったらこいつはブン屋さんが天職でいいことじゃねえかよ。  氷が溶け始めて甘ったるくなってきた紅茶をすすりながら、俺は目の前の男の口から出てくる言葉を話半分に聞いていたが、どうやら話は簡単で、馬券予想の話を書いてみたらどうかということ。  ただし、純粋に予想だけを書くのではなく、日々の出来事や時事を交えた連載風にやってほしいとのこと。 「ほらほら、李くん適当なこと言ってバズらせるの得意だろ?だから俺ハマさんに言ったんだ。俺の友達数字ありますよってさ。」 「別に適当なんてこいてねえよ。あれはなあ、俺の心の底から出てくる感情をポエトリカルにしてアウトプットするっつう高度な作業なんだよ。」 「すいませんハマさん、李は昔から照れると横文字使いだすんですよ。なあ、やるだろ?お金もくれるんだって。」  金か。確かに金はあっても困らないが、そもそもゼニ取って予想することもある俺が週刊連載なんてしても良いものなのか。  それに面白くするために世相を取り入れながらなんて簡単に言ってくれるが、俺は安倍ちゃんが何歳なのかも知らねえしな。  沈黙の中、少し悩んだ顔をしているとブン屋がまたしゃべり出した。 「そんなに難しく考えることなんかないですよ。世相というよりも李さんの周りの話だけでいいんです。」 「周りの話って言ってもなあ。」 「いいんだって李くん。ハマさんこう言ってるんだからさ。事件なんかたくさんあるじゃんよ。」 「そんなこと言われても今週あった話なんかくだらないぜ?有名キャバ嬢に子供がいたとか、諏訪神社の脇の草むらから今時シンナーが出て来たとか。あとはなんかあったかな……そう、とんでもない事件が起こりそうなんですよ。」 「〇〇がまた歌舞伎町に戻ってきた!」  言おうとしていたことを純ちゃんが先に発した。 「そうそう、そんな内輪の話ばっかりで。こんなのじゃ良くないんでしょう?」  だがブン屋がそれでもいいなんて言うもんだから参っちまう。 「あとはそうだな。チンポコの写真をいろんなやつに送り付けてる予想屋のガキにおしおきしてみたりとか。テレビ屋にプレゼント詐欺のからくり教えたら喜ばれたりってのもあったな。でもやっぱりこんなネタじゃあ長くも続けられないんじゃないの?」  俺が何を言ったところでブン屋は大丈夫ですよ、としか返さない。ページ数にでも困っているのだろうか。  そうこうしているうちに、なんだか断るに断れない雰囲気にもなってきたし、よくよく考えたらこれはチャンスなんじゃねえかなんて思ってきた。  だってあれだろ?恵比寿あたりのラウンジでお姉ちゃんと飲んでいる時に『仕事は何しているんですか?』なんて聞かれると『内緒』なんて言って煙に巻いていたこの俺がだ。  作家だと言っても詐欺じゃねえってことになる。  思えば俺はガキの頃から母親に想像力が豊かな子だと褒められていた気がする。  その証拠に今のこの一瞬で、俺の脳内ではラウンジで出会った百点満点のハーフの女と付き合って沖縄旅行に行くところまで話が進んでいた。  気付けばすっかり連載の話は煮詰まっていて、南関東競馬の重賞がある水曜日とJRAのG1がある日曜日の週二本でどうか? とまで話が飛躍していた。 「じゃあ気のないレースもあるし、一応不定期ってことにして、なるべく書くっていうのは?そんなのでも俺なんかにゼニくれるんですか?」  いいんだとさ。本当かよ?  だったら将来出会うハーフの美女のためにもやっちまおうかな。  この原稿の配信日となる水曜日は浦和競馬で中央より一足早いクラシックである桜花賞がある。  そこから始めようなんて話をして、湿ったブン屋のハマの手を気にすることなく固い握手、そして俺は帰路に着いた。  そんな経緯で今この原稿を書いているっていう寸法だ。
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ニンベン師の元、粉泥棒のヤス、引き屋のマサル
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新宿・歌舞伎町を根城にするギャンブラー。競馬競輪、ボートにバカラと賭け事ならなんでもござれ。座右の銘は「給我一個機会,譲我在再一次証明自己」

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