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被害総額3億円の詐欺師を成敗。勢いに乗る馬券師の菊花賞予想

 毎年の恒例行事。  年末になると、切り取り(債権回収)の相談が山のように飛び込んでくる。  金銭の貸し借りってよりも詐欺でやられた相談が多い。被害者側も返ってくるのか来ねえのかもわからねえ損失を抱えて年を越したくないんだろうな。  詐欺師側は当然逃げ切りたい。 「来週まとまったゼニが入る」だの「運用先の人がやっと連絡取れた」だの、適当な嘘を並べて時間を引っ張る訳だが、年の瀬が近づくと被害者の意識が変わってくる。  今までは飛ばれたくないからある程度の関係性を維持しながら話していたような穏健派の被害者も、飛ばれる覚悟で強硬手段に出始めるんだ。  十月はそんな季節。  誰かが食い散らかした食べかすに山盛りの灰皿。  打ちっ放しの壁には作者も知らない安物の絵画。  不衛生でも、これはこれである種の背徳の美学があるなんて思いながら、アジトで相談事のダイレクトメールに目を通していた俺の元に、巨額の詐欺事件の相談が寄せられたのが今月の頭だった。

■パテックにロレックス。超高級時計を腕に巻いた若き詐欺師

 高配当を謳ってカネを集め、2,3回本当に配当を支払って信用させ、大きく出させてから飛ぶ。いわゆるポンジスキーム型の詐欺は、まず相談者から疑うのが鉄則だ。  SNSなどで釣られた数多くの被害者から集金したのは、実は相談者自身だったというケース。この仕事をやっているとよく遭遇するシーンなんだ。  要は、てめえで金集めをしていて、その運用先として預けた詐欺師に飛ばれているケースだな。  ただ、こういうのはカネを投げた末端からしたら、先がどうあれそいつがケツ拭けよとしか思わない。 「それは君が悪いんじゃないの?」  そう言ってお断りをする事もある。  被害者であると同時に加害者であることが多いのが投資詐欺における重要な側面であって、今回俺が追っている事件も似たようなものだった。  大元の詐欺師は現在住民票を福岡県に置き、実家は神奈川県内にあるNというハーフの22歳の小僧。  調査をしていると、元から手癖は悪いものの、ある程度真面目なサッカー少年だったようだ。  どこでどう間違ったのか、舌先三寸でインスタグラムで知り合った人片っ端からカネを巻き上げる詐欺小僧になっていて、その豪遊振りは凄まじいものだった。  パテックフィリップにリシャールミル、ロレックスにロールスロイス。身に纏う服だって全てが高級ブランドだ。  この手のインスタグラムで金持ちアピールをして人様からカネを騙し取る詐欺師は、基本コピー品や借り物の時計なんかでセルフブランディングをする訳だが、Nの場合は全てが本物だった。  Nは株の「インサイダー」やら「絶対儲かる仮想通貨」「高金利のファンド案件」など様々な言い回しで被害者を量産していたが、簡単に言うとまあ自転車のギアが噛み合ったんだろうな。  集めた金に運用の実態は欠片もなかった。

■被害総額3億円。出資者の心を蝕む悪魔の手口

 ただ、これがどうしてなかなか新規の被害が止まらない。  先にわからない読者諸兄のためにポンジスキームについてWikipediaから引用する。 <出資してもらった資金を運用し、その利益を出資者に(配当金などとして)還元する」などと謳っておきながら、実際には資金運用を行わず、後から参加する出資者から新たに集めたお金を、以前からの出資者に“配当金”などと偽って渡すことで、あたかも資金運用によって利益が生まれ、その利益を出資者に配当しているかのように装うもののこと。投資詐欺の一種に分類され、日本語で「自転車操業」と呼ぶような状態に陥り、最終的には破綻する>  これがポンジスキームってやつ。  要は出資した人間がうるさくなり始めたら、新たに出資させた人間の金をちょこっとつけて黙らせる。  この自転車操業がそれなりに上手くいっていればなかなか大事にならない。  出資者が不安になってNのインスタグラムを見ると派手に豪遊しているものだから「金はありそうだし大丈夫なのかも」と思ってしまうというのもあるだろう。  あまり詰めると連絡が取れなくなるし、不安で仕方がないのに詐欺師に嫌われないように努力するようになってしまう被害者も多い。  このガキの場合、インスタグラムはいわゆる鍵アカで、主に港区の飲み屋なんかで知り合った人間と連絡先を交換し、後日高級ホテルのラウンジなどでクロージングすることも多かったから、こいつからの配当が遅れていることがなかなか広まらなかったのもあるかと思う。  Nは偽名をいくつかも使い分けていたし、例えばAという名前に悪評が出ていたら、新規のカモにはBという名前で接触するようにしていたりと詐欺野郎なりに色々考えていたようだ。  だが「邯鄲(かんたん)の夢」という故事があるように、人の世の栄枯盛衰は儚きものだ。  Nにも終わりの始まりが訪れる。  今回の仕事の被害総額は3億円。  法律やらが色々あるから報酬額は具体的に書くことが出来ないが、それは俺を本気にさせるに相応しいものだった。  こういうやつをおびき出すのは簡単で、カモの振りして近づいて、投資に誘われたら後は簡単。  俺たちは呼び出し役に雇ったやつと入念に打ち合わせをして、実行日にNが集金しにのこのこ現れたところを捕獲した。
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Nの一家は「詐欺家族」
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