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『鬼滅の刃』の時透無一郎はなぜ「嫌なヤツ」から「いい人」に変われたのか?

いまの仕事楽しい?……ビジネスだけで成功しても不満が残る。自己啓発を延々と学ぶだけでは現実が変わらない。自分も満足して他人にも喜ばれる仕事をつくる「魂が燃えるメモ」とは何か? そのヒントをつづる連載第169回 『鬼滅の刃』(集英社)という大ヒットしている漫画があります。大正時代を舞台に、家族を鬼に殺された主人公の竈門炭治郎が、家族を殺した宿敵を倒し、鬼になってしまった妹を人間に戻すために旅に出る冒険譚です。  この『鬼滅の刃』に時透無一郎というキャラクターがいます。主人公の炭治郎が所属する組織『鬼殺隊』の一員で、最も実力のある戦士『柱』の一人でもあります。刀鍛冶の里で炭治郎と出会った当初、無一郎は柱以外の人間を見下していました。  彼は刀鍛冶について、「柱の時間と君たちの時間は全く価値が違う。刀鍛冶は戦えない。人の命を救えない。武器を作るしか能がないから」と断言します。一言でいうと『嫌なヤツ』だったわけですが、話が進むにつれて『いい人』に変化します。  刀鍛冶の里が鬼に襲われた時、無一郎は襲われていた子供を見殺しにしようとします。「子供はまだ刀鍛冶として未熟で、技術や能力の高い者を優先して守るべき」と考えたからです。しかし、炭治郎の「人のためにすることは巡り巡って自分のためになる」という言葉を思い出して立ち止まり、その子供を鬼から救います。そして、自分の刀を作った別の刀鍛冶に対して、『俺のために刀を作ってくれてありがとう鉄穴森さん』と感謝するようになります。  無一郎はもともと両親と双子の兄がいる四人家族でした。しかし彼が10歳の時に母親は肺炎で、父親は嵐の日に薬草を取りに行って崖から落ちて命を落とします。また、兄の有一郎もその翌年に鬼に襲われて命を落とします。生前の有一郎は「剣士になって誰かの役に立ちたい」という無一郎の考えを否定し、勧誘にくる鬼殺隊の使いも追い返していました。「そうしなければ弟を守ることができない」と考えていたからです。  しかし死の直前、「弟は俺と違う心の優しい子です。人の役に立ちたいと言うのを俺が邪魔をした」「お前は自分ではない誰かのために無限の力を出せる選ばれた人間なんだ」と懺悔します。  ただひとり生き残った無一郎は、そうした体験を忘却していました。そして、その体験と「剣士になって誰かの役に立ちたい」という自分の信念を思い出す前後で、「嫌なヤツ」から「いい人」に変わっています。このように価値観や行動は、「何を覚えているか、何を思い出すか」で変わります。
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