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世界興行収入で『鬼滅の刃 無限列車編』に迫った中国の抗日“プロパガンダ”映画の中身

中国映画『八佰』とは……

『八佰(エイト・ハンドレッド)』

映画『八佰(エイト・ハンドレッド)』より

 新型コロナウイルスのせいで自粛続きの現在。その過程でも多くの映画が公開されヒットしている。中でもコロナ禍で想定外の大ヒットを記録したのが、現在も続編「遊郭編」が、地上波放送中のアニメ『鬼滅の刃 無限列車編』だ。昨年には各種映画データで2020年に公開された映画で世界興収ランキングのトップとなったことが報じられ話題となった。  しかしこのニュースの時に気になったのが中国映画『八佰(エイト・ハンドレッド)』を抜いて1位にと報じられていたこと。いまのところ日本国内では『鬼滅の刃 無限列車編』は誰もが見ているが、次点となった『八佰(エイト・ハンドレッド)』を観ている人はほとんどいない。鬼滅とならぶヒット作の正体を探った。

上海事変を描いた中国映画

『八佰(エイト・ハンドレッド)』は2020年8月に公開された第二次上海事変の最後の戦いである四行倉庫の戦いを描いた作品だ。と、書いてもよほどのミニタリーマニアでもない限り「ああ、あの戦いね」とはならないだろう。時に1937年。日中戦争初期の上海戦末期、死守を命じられ四行倉庫に立て籠もった中国軍(国民革命軍)と日本軍の間で行われた死闘である。  この戦闘はかなり特殊な状況で行われた。倉庫の背面の川の挟んだ対岸は外国人居留地である租界だった。そのため死闘が繰り広げられている対岸はコーヒーを飲みながら様子を見物しているような状況だった。そうした中で死守を命じられたエリート部隊だけに焦点をあてるのではなく、たまたま合流して立て籠もることになってしまった敗残兵。対岸で他人事のように戦争を眺めているうちに愛国心に目覚める人々などの群像劇が描かれていく。  ネガティブな観点でみればプロパガンダ映画である。しかし、それを割り引いても、戦争映画として出色の作品になっているのである。CGを併用して描かれる戦闘シーンは緻密だし、アクションシーンも見事。なにより僅かに奇妙なシーンがあるが攻め寄せる日本軍も強い。  あまりの強さに中国軍のほうが特攻してくる。中国で製作される日中戦争期を描いた作品では奇妙な日本軍が描かれる「抗日ドラマ」の情報ばかりが流布しているが、知らないうちに中国の製作レベルがハリウッドに並ぶようになっていることを気づかされる作品だ。
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日本公開予定はいかに!?
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ルポライター。1975年岡山県に生まれる。県立金川高等学校を卒業後、上京。立正大学文学部史学科卒業。東京大学情報学環教育部修了。ルポライターとして様々な媒体に寄稿。著書に『コミックばかり読まないで』『これでいいのか岡山』

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