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今までで一番響いた「初日、おめでとうございます」という開演前の挨拶/鴻上尚史

今までで一番響いた、初日、おめでとうございます、という開演前の挨拶

ドン・キホーテのピアス 4回目のPCR検査もキャスト・スタッフ全員陰性で、なんとか『ハルシオン・デイズ2020』の幕が開きました。  4回目のPCR検査の結果をプロデューサーが発表した時は、稽古場全体に深い安堵の溜め息が広がりました。  一回目、稽古初日前に病院に行って検査を受けた時は、「おお。これが話題のPCR検査か」と少し興奮しました。二回目、三回目の発表の時は、稽古場では拍手と歓声が起こりました。  けれど、劇場入り直前での4回目の発表は、ただ全員の溜め息でした。 「だってここで誰かが陽性になったら、その瞬間に初日の幕は開かないことが決定して、二週間の隔離期間を計算して、その後、もう一度検査をして陰性が明確になるまでを待つわけだから、いったい、いつまで公演は中止なんだ? ひょっとしたら、一回も公演できないまま終わるのか?」と全員が真顔になったのです。  見たくない風景を見ることになるかもしれないとも怯えました。

もし、誰か一人が陽性になったら…

 もし、誰か一人が陽性になったとして、僕達は冷静でいられるのかと自問したのです。  プロデューサーが、感染者の名前を発表しなくても、仕事の仲間ですからすぐに分かるでしょう。  感染した人は、公演が中止になったことで自分を責めてしまわないかと心配します。  目に見えないウィルスに、どこでどう感染するかなんて本当に分からないのですから、自分を責めるのは絶対にやめて欲しいと思います。が、気持ちは違うだろうと感じます。  公演を制作しているのは、サードステージという僕が社長の会社ですから、公演中止の損害はすべて、僕の責任で引き受けます。  ただし、公演が中止になってもキャスト・スタッフに対して、予定していた全額を払うのは、会社の規模としては難しくなるでしょう。  そういう時、「○○が感染したから公演が中止になったんだ」という、とてつもなく嫌な考えが浮かんできたらどうしようと怯えるのです。  そして、周りも感情的になって、「出歩いていたんじゃないか?」とふと言ってしまうかもしれないと怯えるのです。
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かつて驚いた舞台初日の挨拶、今はしみじみとした気持ちに
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