ホラーではなく、説明不可能な“ジャンルX”の作品
「聖地X」のワンシーンより
“ジャパニーズホラー”と銘打たれている同作ですが、いわゆる『リング』『呪怨』などのホラー作品とは全く異なる恐怖を感じる作品だと思いました。
入江「確かに広い意味ではホラーですが、“ジャパニーズホラー”と謳ってしまうと過去の作品の先入観が入ってしまうので、そういう意味ではこの作品は難しいところですよね。かといって、どういうジャンルの映画かと聞かれると一言で説明できないので、“ジャンルX”の作品なのかと」
まさに“ジャンルX”という感じでした。強いて、この作品の“怖さ”を挙げるとすればどのあたりでしょうか。
入江「大人になっていくと怖いモノがなくなっていくとは思うんですが、『自分って何なんだろう?』『自分のやってきたことって正しいんだろうか?』という疑問だったり、得体の知れない不安だったりを感じることがあると思うんです。今回の作品でも『この人のこと、本当に好きだったのかな?』といった深層心理や人間関係の中で生まれる“怖さ”みたいなモノをテーマとしていますね」
メインキャストの岡田将生さんと川口春奈さんの印象について教えていただけますか。
入江「岡田将生さんは普段は物腰の優しい方ですけど、演技をしてもらうと骨のある重い演技をできる役者さんだと感じました。今回の作品では、最初は優柔不断でナヨナヨした役どころなんですが、後半でどんどん頼りになる兄になっていく姿を見事に体現していた。かなり信頼して演技してもらっていました。
川口春奈さんは直感力の優れた方だなと感心しました。好きだから結婚したはずの夫と別れようとしている女性の役どころですが、その揺らいでいる感じを現場の雰囲気や場面を直感でうまく汲み取って演技されていましたね。表情も繊細に演じ分けていたので、川口さんの表情を撮るカットも多くしましたね。ただ不機嫌なだけでなく、心の奥で揺れている感じはお客さんにも伝わるかなと思っています」
映画「聖地X」より
ところで、監督が影響を受けたホラー映画はあるのでしょうか。
入江「子供のころ、ホラーは怖くて見られなかったタイプなんです(笑)。ただ、『悪魔のいけにえ』は非常によくできたホラーだと思いますし、純粋なホラー映画ではないですが、スティーブン・スピルバーグの『JAWS』は何度見ても新しい怖さを発見できる作品ですね。
ほかにも『SAW』や『死霊館』などを手掛けたジェームズ・ワンや『シックス・センス』『サイン』などのM・ナイト・シャマランは、非常にホラーの演出が巧みな監督なのでリスペクトしていますね」
今回の韓国ロケを経験して、新たな作品作りの目標などはできたのでしょうか。
入江「海外で日本映画を作っていきたい韓国に限らず、海外でもっと映画を作ってみたいと思いました。スケジュールや労働環境のことだったり、スタッフと出演者のコミュニケーションの取り方だったりが日本の制作過程とは、まるで違うので。『ジョーカー・ゲーム』(2015年上映)はインドネシアで撮影したのですが、今後もチャンスがあれば海外ロケで作品作りを挑戦できれば!」
最後にこれから『聖地X』をご覧になる方にメッセージをお願いします。
入江「今の時代ってエンターテインメントであってもゴールが設定されてしまっているモノが多いと思うんです。だけど、未知のモノに飛び込む体験というのはすごく尊いと思うので、この作品に漂う“得体の知れなさ”を面白がっていただければと思います」
奇才・入江悠監督が作り上げた、これまでの“ジャパニーズホラー”とは一線を画すジャンルにカテゴライズできない「新しいホラー映画」。これからも入江監督の作品からは目が離せない。
【入江悠】
’79年、神奈川県生まれ、埼玉県育ち。’09年、自主制作による映画『SR サイタマノラッパー』が大きな話題を呼ぶ。その後、『日々ロック』、『ジョーカー・ゲーム』、『太陽』、『22年目の告白~私が殺人犯です~』、『AI崩壊』などで監督を務める。
取材・文/瀬戸大希 撮影:大友崇嗣