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防衛費の引き上げ、“喫緊の危機”にもかかわらず「5年以内」のおかしさ/倉山満

本気でロシアと戦う気だった主要国はイギリスくらいか

 そうして今次ウクライナ事変。ロシアが大規模動員をかけているのに、NATOのほとんどの国はやる気が無かった。特に、仏独の他人事ぶりは惨かった。アメリカは軍がマトモでも、大統領がポンコツだ。本気でロシアと戦う気だったのはイギリス、それにロシアの脅威に直面する小国くらいか。事実、「英米は表立って一緒に戦う」以外のあらゆる支援を行っている。  しかし、いざ戦いが始まると、ウクライナは予想外の善戦だ。多勢に無勢でありながら、首都を守り切った。特にゼレンスキー大統領は亡命を拒否、暗殺の危機を逃れながら、戦闘初日に「自分はキーウを離れない!」と宣言、見事にロシア軍を完全撤退させた。ゼレンスキーの身辺警護をイギリスの特殊部隊(SAS)がしているらしい。先日、ジョンソン首相がキーウを電撃訪問したが、戦勝祝いの訪問か。

「有事に誰の命令で戦うか」を決めるのが国政選挙

 もし日本がウクライナと同じ状況になった時、首相が「自分は東京で死ぬ! 男は全員、武器を持って戦え!」と宣言する未来を想像できるか? 国政選挙とは、「殺し合いになった時に、誰の命令で戦うか」を決める選挙なのだ。  しかし、ウクライナのようにならないに越したことはない。では、どうするか?  軍事予算を増やすことだ。さっそくドイツが、「来年から毎年、防衛費をGDP2%にする」と宣言した。これまでかたくなに1.5%だったのに。よりによって、社民党政権のショルツ首相によって。当然、野党の保守勢力は賛成する。足りない分は国債を刷り、基金を創設して賄う。しかも「糧食費などにつかってはならない」と条件まで付けて。つまり、「武器を買うための金だ」との念押しだ。ドイツは「これで我々は貧乏になるかもしれないが、世界第3位の軍事大国になる」との国家意思を示した。予算とは国家の意思なのだ。

「5年以内にGDP2%」? “喫緊の危機”なのに?

 負けじとイギリスは、今までの2%から2.5%に引き上げるそうだ。  軍事費は額だけ多くても意味はないが、軍事費だけでも3位になる。イギリスやドイツにとって世界3位の軍事大国になると、金の使い道さえ間違えなければ、ロシアに対抗できる。いわば、合格最高点なのだ。  さて、我が国だ。平和ボケの自民党も、「5年以内に2%」と提言した。「あのドイツすら目覚めた」まで付言して。さすがに失礼だろ? ドイツは即座にだ。日本の与党ボケ政党のように、「5年以内に」などと、寝言は言っていない。しかも「喫緊の危機が迫っている」としながら、なぜか5年間は大丈夫な設定になっている。理由など、あるはずがない。自民党の提言は、これまでの議論の積み上げで、かなりまとまっている。しかし、予算の裏付けが無い事業計画など何の価値も無い。
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「なぜドイツが今すぐなのに、日本は5年以内なのか」
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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