ニュース

「値上げ許容」発言で謝罪撤回に追いやられた黒田総裁の“功績”/倉山満

黒田総裁を叩いている連中は、恩知らずにもほどがある

 さて、本題である。日本銀行の黒田東彦総裁が理不尽な叩かれ方をしている。マスコミ相手の講演で、「家計の値上げ許容度も高まってきている」と発言し、謝罪撤回に追いやられた。黒田総裁自身は「まさに賃上げの必要性がより高まっているという文脈で申し上げた」と上品な皮肉で返したが、ほとんどのマスコミ人は理解していないだろう。  そもそも、日本は長い間デフレ不況に苦しんでいる。デフレとは、商品に比して通貨供給量が少ない為に起こる現象だ。つまり汗水流して働いた結晶である商品が世の中に溢れているにもかかわらず、お札の量が少なすぎるために希少品となる。結果、働けば働くほど商品の価値は下がり、しょせんは紙切れにすぎないお札の価値が上がり続ける。このような状況で国民の消費意欲が上がるはずがなく、景気は縮小し続ける。デフレスパイラルだ。  これを解決する方法は、通貨供給量を増やすこと、金融緩和だ。黒田総裁は「2%の物価上昇率を達成させるまで、無制限金融緩和を続ける」と宣言、実行した。「黒田バズーカ」だ。バズーカ発射後、景気は爆上げとなった。ところが、消費税を8%に値上げ、景気は急激に失速。その後、黒田日銀がバズーカ第二段を放ったので景気は回復軌道に戻ったが、かつての勢いは失われた。そして10%への消費増税で緩やかな景気回復も止まった。そこへコロナ禍だ。もし黒田総裁が金融緩和を止めていれば、今ごろ東日本大震災と同時にリーマンショックが到来したような地獄が到来していただろう。黒田総裁を叩いている連中は、恩知らずにもほどがある。

今が金融緩和を止める時だろうか

 マスコミでは「金融緩和をやめろ」「悪い円安だ」「インフレになった!」「でも給料が上がらないぞ!」と大騒ぎだが、どういう数字に基づいているのか。悪い円安だと言うが、では1ドル何円ならば適正なのか。インフレだと言うが、アメリカなど10%に迫っているが、日本はようやく2%が見えてきたところだ。給料を上げたいなら、2%程度のインフレを定着させ、デフレ経済から完全脱却させるのが最も近道だ。その根底にある政策が金融緩和だ。  それとも金融緩和を止めて、黒田以前の日銀のように0~マイナス1%の成長率に戻したいのか。自殺者と失業者が社会に溢れた方がいいのか。日本を滅ぼしたいとか、国民が苦しむのが至上の喜びだと言うなら、話は別だが。
次のページ
安倍元首相擁する「積極財政派」vs財務省の手先「消極財政派」
1
2
3
1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

噓だらけの日本古代史噓だらけの日本古代史

ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作は、日本の神話から平安時代までの嘘を暴く!


記事一覧へ
おすすめ記事